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1.元聖女は冒険者になりました。
26.(ステファン視点)
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「その可能性もなくはないな」
「そうだったら、ひどい――いや、でもそんなことがあったら、エルフ族が黙ってるわけないでしょう」
エルフたちは森の奥で他の種族から離れ、独立した生活をしている。
人間を中心とした僕たちの社会に姿を見せることは稀で、僕もいろいろな土地に行ってるけど、本物のエルフには会ったことがない。
彼らはとにかく同族意識が強くて、他種族が嫌いだという話で――エルフに怪我をさせたりしようものなら、彼らの仲間に子孫まで追われるという噂を聞いたことがあった。
エルフの耳を切ったなんて話を彼らが聞きつけたら、どんな報復があるかわかったものではない。
「だから、エルフじゃなくて魔族なんじゃないかと思ったんだ」
確かに――それもそうではある。いや、でも……。
頭を抱え込んでいると、コンコンとドアをノックする音がして、リルが僕たちを呼んだ。
「ナターシャ、ステファン、話はまだかかる? 報酬の事務処理は終わったけれど」
「ありがとう、リル。もう終わりだ」
所長はそう大声で返事をして、僕に向き直った。
「とにかく、ステファン。あの子の周りには何かあるよ。キアーラの大司教とやらが本当に彼女を親から引き取って育てたのか怪しいもんだ」
「というと、例えば――人身売買とかってことですか?」
うん、と所長は頷く。
「聖職者がそんなことに関わってたなんてことが表に出たら大事件だがな。――でも、キアーラには冒険者ギルドがないし、アタシたちには何もできない」
彼女は険しい顔をした。
所長のこの目で見つめられると、狩られる獲物の気持ちになる。
所長は獣人族の売買の摘発のためにここのギルド長になったと言っていたので、もし本当にレイラが買われた境遇だったとしたら、許せないのだろう。
「とにかく、今は竜の卵の密売の件もあるし――、あの子のことは様子見だけど」
所長は僕の肩を叩いた。
「あの子のこと、くれぐれも面倒見てやってよ」
「もちろんです」
にっこり笑って答えた。
内心厄介ごとを抱えてしまったな、とため息をついたけれど。
***
僕たちはテムズさんの馬に焼けなかった布をたくさんぶらさげてギルドを出た。
歩きながらじっとレイラを見る。
エルフや魔族なら、人間より寿命が長いから成長が遅いので、見た目と年齢が一致しないのも合点がいく。
しかも彼らは若い時間が長いので、人間の数倍寿命があるといっても、幼児期が数倍長いわけではなく、10代中ごろまでは若干成長が遅いくらいと言われているし。
一方のレイラは前を行くライガの頭をじっと見つめている。
彼女はライガの服を引っ張って足を止めさせると聞いた。
「所長さんは耳が生えてるのに、何でライガの耳は人間の耳なの?」
「俺は狼男だからだよ。獣人と狼男は違う」
そう、ライガのような狼男は狼憑きとも呼ばれ、獣人よりも魔物に近い。
人間の親から突然、狼の姿に変化する子どもが生まれるのだ。
その性格は凶暴で人を襲う者も多い。
ライガだって最初は魔物みたいだった。
僕は最初に会った時のこいつの姿を思い出した。
ライガは僕の父親が――僕と弟の訓練相手にと僕が10歳の時にどっかから買ってきたんだ。
当時は凶暴で手がつけられなかったけど……、一緒に暮らすうちにだんだん落ち着いてきた。
そう、うちの庭には畑があって料理人がそれでよくそれで野菜たっぷりの料理を作ってくれてたんだ。
あいつはいつも物欲しそうに見てたから分けてやって……
そこでふと、先ほどの所長との会話を思い出した。
「幼い時から神殿でそんな生活をしてたら、魔族だって聖魔法が使えることは――」
環境、例えば食べるもので性質が変わる?
そういえば、ライガも肉ばっか食べてるときはキレやすくなるような……。
「おい、ステファン! 昼は何食う? 俺また昨日の焼肉行きてぇんだけど」
「また! また、あのお店に行けるんですかっ」
ライガの提案にレイラは瞳を輝かせている。
この子、昨日……ライガと同じくらい肉食べてたっけ、そういえば。
菜食のエルフに、肉食の魔族。
どちらかといえば、レイラは……。
急に頭が冷える感じがして、僕は二人に言った。
「今日は、農家野菜ランチにしよう」
「そうだったら、ひどい――いや、でもそんなことがあったら、エルフ族が黙ってるわけないでしょう」
エルフたちは森の奥で他の種族から離れ、独立した生活をしている。
人間を中心とした僕たちの社会に姿を見せることは稀で、僕もいろいろな土地に行ってるけど、本物のエルフには会ったことがない。
彼らはとにかく同族意識が強くて、他種族が嫌いだという話で――エルフに怪我をさせたりしようものなら、彼らの仲間に子孫まで追われるという噂を聞いたことがあった。
エルフの耳を切ったなんて話を彼らが聞きつけたら、どんな報復があるかわかったものではない。
「だから、エルフじゃなくて魔族なんじゃないかと思ったんだ」
確かに――それもそうではある。いや、でも……。
頭を抱え込んでいると、コンコンとドアをノックする音がして、リルが僕たちを呼んだ。
「ナターシャ、ステファン、話はまだかかる? 報酬の事務処理は終わったけれど」
「ありがとう、リル。もう終わりだ」
所長はそう大声で返事をして、僕に向き直った。
「とにかく、ステファン。あの子の周りには何かあるよ。キアーラの大司教とやらが本当に彼女を親から引き取って育てたのか怪しいもんだ」
「というと、例えば――人身売買とかってことですか?」
うん、と所長は頷く。
「聖職者がそんなことに関わってたなんてことが表に出たら大事件だがな。――でも、キアーラには冒険者ギルドがないし、アタシたちには何もできない」
彼女は険しい顔をした。
所長のこの目で見つめられると、狩られる獲物の気持ちになる。
所長は獣人族の売買の摘発のためにここのギルド長になったと言っていたので、もし本当にレイラが買われた境遇だったとしたら、許せないのだろう。
「とにかく、今は竜の卵の密売の件もあるし――、あの子のことは様子見だけど」
所長は僕の肩を叩いた。
「あの子のこと、くれぐれも面倒見てやってよ」
「もちろんです」
にっこり笑って答えた。
内心厄介ごとを抱えてしまったな、とため息をついたけれど。
***
僕たちはテムズさんの馬に焼けなかった布をたくさんぶらさげてギルドを出た。
歩きながらじっとレイラを見る。
エルフや魔族なら、人間より寿命が長いから成長が遅いので、見た目と年齢が一致しないのも合点がいく。
しかも彼らは若い時間が長いので、人間の数倍寿命があるといっても、幼児期が数倍長いわけではなく、10代中ごろまでは若干成長が遅いくらいと言われているし。
一方のレイラは前を行くライガの頭をじっと見つめている。
彼女はライガの服を引っ張って足を止めさせると聞いた。
「所長さんは耳が生えてるのに、何でライガの耳は人間の耳なの?」
「俺は狼男だからだよ。獣人と狼男は違う」
そう、ライガのような狼男は狼憑きとも呼ばれ、獣人よりも魔物に近い。
人間の親から突然、狼の姿に変化する子どもが生まれるのだ。
その性格は凶暴で人を襲う者も多い。
ライガだって最初は魔物みたいだった。
僕は最初に会った時のこいつの姿を思い出した。
ライガは僕の父親が――僕と弟の訓練相手にと僕が10歳の時にどっかから買ってきたんだ。
当時は凶暴で手がつけられなかったけど……、一緒に暮らすうちにだんだん落ち着いてきた。
そう、うちの庭には畑があって料理人がそれでよくそれで野菜たっぷりの料理を作ってくれてたんだ。
あいつはいつも物欲しそうに見てたから分けてやって……
そこでふと、先ほどの所長との会話を思い出した。
「幼い時から神殿でそんな生活をしてたら、魔族だって聖魔法が使えることは――」
環境、例えば食べるもので性質が変わる?
そういえば、ライガも肉ばっか食べてるときはキレやすくなるような……。
「おい、ステファン! 昼は何食う? 俺また昨日の焼肉行きてぇんだけど」
「また! また、あのお店に行けるんですかっ」
ライガの提案にレイラは瞳を輝かせている。
この子、昨日……ライガと同じくらい肉食べてたっけ、そういえば。
菜食のエルフに、肉食の魔族。
どちらかといえば、レイラは……。
急に頭が冷える感じがして、僕は二人に言った。
「今日は、農家野菜ランチにしよう」
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