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1.元聖女は冒険者になりました。
4.
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びゅんびゅん風を切って馬車は街道を進んで行く。
「うわぁ」
私は窓から見える山を見て、感動した。
神殿からはこんなにたくさんの緑、見えなかったもんなぁ。
祈りの間は四方が石の壁の小さい部屋だし、その隣の自分の寝室は窓はあるけど開けても壁しか見えなかった。
ごくたまに、式典のときに塔の上に登らせてもらえて、街を見渡すのが楽しみだったけど、それもずっと同じ景色だと飽きちゃうし。
――自由って素晴らしい――
そう思ったとき、急にききーっと馬車が止まった。
反動で私は椅子から転げ落ちる。
「どうしましたか?」
頭をさすりながらドアを開けると、兵士さんが暴れる馬をなだめながら、青い顔で言いました。
「引き返しましょう、聖女様――」
唇がぶるぶる震えています。
その視線の向こうには、大横倒しになった大きな馬車が黒い煙を上げていました。
何かが真っ赤な炎をその馬車に向かって吐いています。
やっぱり真っ赤な色の鱗の、すごく大きいトカゲみたいな生き物です。
トカゲはたまに神殿の部屋でも見かけたけど……。
「何でこんなところに火竜がいるんだ……」
兵士さんたちががやがやとしています。
――あれが、竜!
竜なんだっ!
私は興奮のあまり馬車から飛び出してしまった。
だって、竜。
本物の竜がそこにいるんだもの。
竜は教会では神様の使いとされています。
ただ一方、悪い竜もいて、悪い竜は黒い色をしていて、人を襲うと教えられました。
――赤い竜は教えてもらえなかったな。
あの竜は悪い竜?
「危ないです」
私がその燃える馬車の方へ行こうとすると、兵士さんが馬から降りて、止めようとしてくれましたが、私はその手をするりと抜けて、竜に向かって走った。
よくわからないけど、直感的にその竜は、悪い竜じゃない気がしたから。
でも竜は、走ってくる私に気が付いて、また口を大きく開けて炎を吐き出す準備をする。
「何してんだよ!」
そのとき、男の人の怒ったような声がして、私の身体が横にぐいっと引っ張られた。
「うわぁ」
間抜けな声を出して、私はずざざーと街道に転がった。
修道服の襟首を何かに噛まれている感触がして、振り返ると、横に銀色の毛をした大きな犬の顔があった。
「犬? ……犬!」
私はその犬に襟首を噛まれてぶらりとぶら下がったまま、その銀色のふかふかした毛をわしゃわしゃと撫でた。
犬は見たことがある。
1月に1回くらい礼拝に来る貴族の男の人が白いむくむくした大きい犬を飼ってて、いつも一緒に連れて来てた。
毎月それをちらっと見るたび、触らせてもらえないかなぁって思ってたんだ……。
「犬じゃねえ! 狼だ!」
私の襟首から口を離すと、そのずいぶん大きい犬……もとい狼が怒った。
牙の生えた口から声がする。
「しゃべった……」
私はびっくりしてその犬を見つめた。
「うわぁ」
私は窓から見える山を見て、感動した。
神殿からはこんなにたくさんの緑、見えなかったもんなぁ。
祈りの間は四方が石の壁の小さい部屋だし、その隣の自分の寝室は窓はあるけど開けても壁しか見えなかった。
ごくたまに、式典のときに塔の上に登らせてもらえて、街を見渡すのが楽しみだったけど、それもずっと同じ景色だと飽きちゃうし。
――自由って素晴らしい――
そう思ったとき、急にききーっと馬車が止まった。
反動で私は椅子から転げ落ちる。
「どうしましたか?」
頭をさすりながらドアを開けると、兵士さんが暴れる馬をなだめながら、青い顔で言いました。
「引き返しましょう、聖女様――」
唇がぶるぶる震えています。
その視線の向こうには、大横倒しになった大きな馬車が黒い煙を上げていました。
何かが真っ赤な炎をその馬車に向かって吐いています。
やっぱり真っ赤な色の鱗の、すごく大きいトカゲみたいな生き物です。
トカゲはたまに神殿の部屋でも見かけたけど……。
「何でこんなところに火竜がいるんだ……」
兵士さんたちががやがやとしています。
――あれが、竜!
竜なんだっ!
私は興奮のあまり馬車から飛び出してしまった。
だって、竜。
本物の竜がそこにいるんだもの。
竜は教会では神様の使いとされています。
ただ一方、悪い竜もいて、悪い竜は黒い色をしていて、人を襲うと教えられました。
――赤い竜は教えてもらえなかったな。
あの竜は悪い竜?
「危ないです」
私がその燃える馬車の方へ行こうとすると、兵士さんが馬から降りて、止めようとしてくれましたが、私はその手をするりと抜けて、竜に向かって走った。
よくわからないけど、直感的にその竜は、悪い竜じゃない気がしたから。
でも竜は、走ってくる私に気が付いて、また口を大きく開けて炎を吐き出す準備をする。
「何してんだよ!」
そのとき、男の人の怒ったような声がして、私の身体が横にぐいっと引っ張られた。
「うわぁ」
間抜けな声を出して、私はずざざーと街道に転がった。
修道服の襟首を何かに噛まれている感触がして、振り返ると、横に銀色の毛をした大きな犬の顔があった。
「犬? ……犬!」
私はその犬に襟首を噛まれてぶらりとぶら下がったまま、その銀色のふかふかした毛をわしゃわしゃと撫でた。
犬は見たことがある。
1月に1回くらい礼拝に来る貴族の男の人が白いむくむくした大きい犬を飼ってて、いつも一緒に連れて来てた。
毎月それをちらっと見るたび、触らせてもらえないかなぁって思ってたんだ……。
「犬じゃねえ! 狼だ!」
私の襟首から口を離すと、そのずいぶん大きい犬……もとい狼が怒った。
牙の生えた口から声がする。
「しゃべった……」
私はびっくりしてその犬を見つめた。
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