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7.私がどう思うか

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 レオナは私とタニアを連れて、王宮の中を案内してくれた。

「こちらが中庭になります」

「よく手入れされていて、綺麗ですね」

 タニアが愛想良く笑って応対してくれるので、私は黙っていれば良いので楽だ。
 アーノルドとは何とか会話ができたものの、何かを聞かれて答える以外に言葉を発するのは、やっぱり口がうまくうごかない。

「――花壇の花の色もばらばら、やはり、獣人の仕事というのは適当ですね」

 けれど、都度都度タニアが耳元で小声でそんな風にレオナに対する返事とは反対のことを囁いてくるので、私はどう反応していいかわからず、とりあえず無言で頷いた。

 しばらく王宮の中をぐるぐる回っていると、レオナは立ち止まって、タニアに「こちらが王宮の使用人の部屋のある棟になります」と言った。

「タニア様には、これからこちらの使用人たちにご指示いただくことがあるでしょうから、彼らとお話をお願いいたします」

 そう言って、使用人の人たちを呼ぶと、タニアを連れて行かせてしまった。
 私はレオナと二人きりになって、所在なく周囲を見回した。

「私たちの耳は」

 レオナは私を見つめると言った。

「あなたたち人間の何倍かよく、聞こえるのです」

 私は首を傾げる。

「……どういうことでしょうか?」

「リーゼロッテ様は、タニア様のお言葉に全て頷かれていましたが、あなたは私たちをどうお思いですか?」

 私はぱちぱちと瞬きをした。どう答えるのが正解なのだろうか。
 私たち、というのは獣人についてということだろうか。
 だって私はリーゼロッテの代わりにと言われてここに来ただけで、特に彼らについて思うところはない。

「アーノルド様の奥方に周辺国の地位のある人間の女性を、と評議会が提案をしたので、あなたをお招きいたしました。あなたのお父様がそれを許可されたのは、私たちを恐れてのことでしょうか。私たちは、要望を拒否されたからといって何かをするような、そんなことはありません。――――もし、私たちのことを野蛮だとそうお思いなら、ルピアにお帰りいただいて、構わないのです」

 少し泣きそうな顔でレオナはそう言った。

 帰るのは困る。私は私の役割を果たさないといけないから。
 私はこの人たちをどう思っている――?

「――耳や尻尾が可愛いと思います」

 そう呟くと、レオナは「え」と呟いて驚いたように顔を上げ、首を傾げた。

「皆さん、ふわふわとしていて、可愛らしいです。そういったものが私にもあれば良いのにと思いました」

 もし、自分にあの耳や尾が生えていたら楽しそうだ。
 寒いときに手のひらを温められるかもしれない。

「可愛い、ですか」

 レオナは自分の耳を押さえると神妙な顔をした。

「変なことを言いましたか」

「――変ですね」

 それからレオナはふっと微笑んだ。

「リーゼロッテ様がそう思ってくださっていて良かったです。――タニア様の言葉は、昔からよく言われている言葉で――、少し、気にかかったもので――、差し出がましいことを聞いてしまい、申し訳ありませんでした」

 そうか。『獣人だから適当』とか、そういう言葉に彼女は傷ついたのか。
 私はようやくそこで気づいた。
 人が傷つくようなことを言うのは、良くないこと。
 今の私はリーゼロッテ。今はタニアの主人なのだから、彼女の言葉を正すことができるはず。

 私は彼女に頭を下げた。

「タニアの言うように思っているわけではないです。ごめんなさい。今度から注意します」
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