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6.隣国の王宮
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翌日の夕暮れ近く、私たちはテネスの王都に到着した。
ルピアに比べてもこじんまりとした城下町だったけれど、街中には獣人の人たちや、ところどころ人間が忙しなく動き回っている。みんな馬車を視界に入れるとこちらに向かって手を振って道を開けてくれた。
建物はやっぱりところどころ壊れた痕がある。
――やっぱり、大きな争いがあったんだろうか。
「――壊れている場所が多いのですね」
「そうだね。しばらく国内が混乱していたから――でも、今は大分落ち着いているから安心して良いよ。もう王宮だ」
アーノルドはまた笑って窓の外を指差した。
ルピアの城と違って、到着した王宮は平たい、お屋敷のような建物だった。
馬車を降りたところで、大きな銀色と白色の毛をした狼のような大きさの犬がこちらに勢い良く駆けてきた。
……ふわふわしてるわ。
思わず手を伸ばそうとすると、横でアーノルドが「待て!」と焦ったように手を出した。
犬は大人しくその場に座る。
「悪い。怖がらないでくれ。王宮内には何頭か狼がいるけど、皆、命令を聞いて噛みつくようなことはないから」
アーノルドが困ったように笑いながら言った。
犬じゃなくて、狼なのね……。
「あなたが来るから奥に閉じ込めておくように言っておいたんだけど……出てきてしまったみたいだ」
「大丈夫です」
私はそう答えると白い方の狼の頭を撫でた。
狼も犬も変わらないのね。
……犬は好きだ。ルピアの城でも、門番が番犬を飼っていた。
周りに人がいなければ、その犬に話しかけるのが日課になっていた。
そうでもしないと言葉が本当に口から出てこなくなってしまう気がしたから。
こちらが話しかければ、鼻を鳴らしたり返事をしてくれる賢い子だった。
「名前はなんですか?」
そう聞くと、アーノルドは相好を崩した。
「白い方がアル、銀色の方がイオだ」
「アル、イオ、よろしく」
そう言って拳を突き出すと、二匹は私の手の匂いを嗅いで、ワウっと一声吠えた。
その時、「ぎゃぁ」と悲鳴が上がった。
後ろからついてきたタニアが狼を見つけて上げた悲鳴だった。
「だ、大丈夫ですか!?」
彼女は距離を保ったまま私に蒼白の表情でそう聞いた。
「大丈夫です。……とても賢いわ」
そう答えて狼の頭を撫でた。
***
案内された部屋はとても広くて、居心地の良さそうな部屋だった。
天蓋のついたベッドもある。
「長旅、疲れただろう。ゆっくり休んでくれ。必要なことは、レオナに何でも言ってくれ」
「よろしくお願いいたします。リーゼロッテ様」
道中、ずっと馬に乗ってついてきてくれた茶色い耳を持った、アーノルドと同じ狼の獣人だと思う女性がそう言って前に出る。
「それでは、俺はいったん失礼する。夕食の席でまた」
アーノルドはそう言って部屋を去ろうとした。
その手を掴むと、私は気になっていたことを聞いた。
「同じ部屋ではないのですね……?」
広い部屋だったが、室内の調度品は一人分、という感じだった。
アーノルドは少し驚いたような顔をして、耳を掻いた。
「――3月後にあなたのお父上や他国の来賓を招いて婚礼の式を行う。それまで、こちらでの暮らしに慣れてもらえればと思う」
確かに、その間に、お父様はここを襲う算段を周辺の国とつける、という話だった。
私の役目は、それまでリーゼロッテとしてここで暮らすこと。
けれど……そう、それまでは夫婦というわけではないのね。
私は首を少し傾げた。
その役割を務めるつもりで来たので、そう言われて少し困ってしまった。
「暮らしに慣れる、というのはどうすれば……?」
何をどうしろと言われないと、何をすればいいのかがわからない。
そう聞くと、アーノルドは少し困った顔をして笑った。
「好きなことをしてもらえれば良い。レオナ、とりあえず王宮内を案内してあげてくれ」
ルピアに比べてもこじんまりとした城下町だったけれど、街中には獣人の人たちや、ところどころ人間が忙しなく動き回っている。みんな馬車を視界に入れるとこちらに向かって手を振って道を開けてくれた。
建物はやっぱりところどころ壊れた痕がある。
――やっぱり、大きな争いがあったんだろうか。
「――壊れている場所が多いのですね」
「そうだね。しばらく国内が混乱していたから――でも、今は大分落ち着いているから安心して良いよ。もう王宮だ」
アーノルドはまた笑って窓の外を指差した。
ルピアの城と違って、到着した王宮は平たい、お屋敷のような建物だった。
馬車を降りたところで、大きな銀色と白色の毛をした狼のような大きさの犬がこちらに勢い良く駆けてきた。
……ふわふわしてるわ。
思わず手を伸ばそうとすると、横でアーノルドが「待て!」と焦ったように手を出した。
犬は大人しくその場に座る。
「悪い。怖がらないでくれ。王宮内には何頭か狼がいるけど、皆、命令を聞いて噛みつくようなことはないから」
アーノルドが困ったように笑いながら言った。
犬じゃなくて、狼なのね……。
「あなたが来るから奥に閉じ込めておくように言っておいたんだけど……出てきてしまったみたいだ」
「大丈夫です」
私はそう答えると白い方の狼の頭を撫でた。
狼も犬も変わらないのね。
……犬は好きだ。ルピアの城でも、門番が番犬を飼っていた。
周りに人がいなければ、その犬に話しかけるのが日課になっていた。
そうでもしないと言葉が本当に口から出てこなくなってしまう気がしたから。
こちらが話しかければ、鼻を鳴らしたり返事をしてくれる賢い子だった。
「名前はなんですか?」
そう聞くと、アーノルドは相好を崩した。
「白い方がアル、銀色の方がイオだ」
「アル、イオ、よろしく」
そう言って拳を突き出すと、二匹は私の手の匂いを嗅いで、ワウっと一声吠えた。
その時、「ぎゃぁ」と悲鳴が上がった。
後ろからついてきたタニアが狼を見つけて上げた悲鳴だった。
「だ、大丈夫ですか!?」
彼女は距離を保ったまま私に蒼白の表情でそう聞いた。
「大丈夫です。……とても賢いわ」
そう答えて狼の頭を撫でた。
***
案内された部屋はとても広くて、居心地の良さそうな部屋だった。
天蓋のついたベッドもある。
「長旅、疲れただろう。ゆっくり休んでくれ。必要なことは、レオナに何でも言ってくれ」
「よろしくお願いいたします。リーゼロッテ様」
道中、ずっと馬に乗ってついてきてくれた茶色い耳を持った、アーノルドと同じ狼の獣人だと思う女性がそう言って前に出る。
「それでは、俺はいったん失礼する。夕食の席でまた」
アーノルドはそう言って部屋を去ろうとした。
その手を掴むと、私は気になっていたことを聞いた。
「同じ部屋ではないのですね……?」
広い部屋だったが、室内の調度品は一人分、という感じだった。
アーノルドは少し驚いたような顔をして、耳を掻いた。
「――3月後にあなたのお父上や他国の来賓を招いて婚礼の式を行う。それまで、こちらでの暮らしに慣れてもらえればと思う」
確かに、その間に、お父様はここを襲う算段を周辺の国とつける、という話だった。
私の役目は、それまでリーゼロッテとしてここで暮らすこと。
けれど……そう、それまでは夫婦というわけではないのね。
私は首を少し傾げた。
その役割を務めるつもりで来たので、そう言われて少し困ってしまった。
「暮らしに慣れる、というのはどうすれば……?」
何をどうしろと言われないと、何をすればいいのかがわからない。
そう聞くと、アーノルドは少し困った顔をして笑った。
「好きなことをしてもらえれば良い。レオナ、とりあえず王宮内を案内してあげてくれ」
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