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5.隣国に到着
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馬車は隣国の門をくぐった。
私は窓を開けて外の景色を眺めた。
緑色の葉が茂った畑がどこまでも広がっていて、アーノルドと同じように耳の生えた獣人が数人その中で作業をしている。彼らは馬車に気づくと、こちらに向かって手を振った。
「好きなことは、農園の様子を見ること。好きな食べ物は、果実と肉の煮込み」
アーノルドが「好きだ」と言っていたことを復唱すると、彼は不思議そうな顔をして、それから表情を崩した。
「覚えてくれたのか。嬉しいな」
「はい」と頷くと、彼はくつくつと笑い声を立てた。
――何か笑われるようなことをしただろうか。
少し焦って、
「何か変なところがありましたか」
と聞くと、彼は「いやいや」と手を振った。
「笑ってすまない。いや、思っていたより、面白い方だなぁと――いや、良い意味なんだ。表現が悪くてすまない」
「良い意味ですか」
それなら良かった、とほっとすると、アーノルドはまた可笑しそうに笑った。
***
その日は、広がる農園の中心にある大きなお屋敷に泊まった。
この地域を治める領主の家だろうか。
「アーノルド様、よくいらっしゃいました」
屋敷から出てきたのはやっぱり獣人だったけれど、アーノルドのようなふさふさした尻尾ではなく、ひょろりと長い尾がズボンの後ろから出ている。
「――この地域の管轄をしている者だ」とアーノルドはその獣人を紹介した。
「リーゼロッテ様、道中問題はございませんでしたか」
私たちの後ろについた馬車からタニアが駆け出してきて、私の横に来る。
「はい。何の問題もありません」
私がそう答えると、タニアは周囲を見回した。屋敷周りの塀などに、ところどころ壊れた痕がある。
「この屋敷の主人は、もともとはあの獣人ではないはずです」
タニアはアーノルドと話し込むひょろりとした尻尾の獣人を見ながらそう耳打ちした。
「元の主人の方はどちらへ」
「――彼らは、領主たちを捕らえて連れて行き、王都で裁いているそうですよ」
「裁く」
私は言葉を繰り返した。罪人を裁いて処遇を決めることができるのは、ルピア王国ではお父様たち、国王陛下や貴族だ。アーノルドたちは貴族ではないと思うのだけれど。でも、彼は今ここの国の『王様』だというのだから、裁いて良いのか。
「そうですよ。獣人が貴族を裁くなど、許されません」
タニアは語気を強めて囁いた。
***
その屋敷で出された食事は今までに食べたことがないくらい美味しいもので、それこそお腹が膨れたのが服の上から見てわかるほど、食べてしまった。
その様子を見て、アーノルドはまた笑った。
よく笑う人だ。何がそんなに面白いのだろう、と思ったけれど、この人が笑った顔を見ているともう食られないのに、もっと食べれるような気持ちになる。
食後に案内された部屋はとても広くて、ベッドはふかふかだった。
「明日には王宮につくよ。おやすみ」
と声をかけて、アーノルドは廊下を去って行った。
私は窓を開けて外の景色を眺めた。
緑色の葉が茂った畑がどこまでも広がっていて、アーノルドと同じように耳の生えた獣人が数人その中で作業をしている。彼らは馬車に気づくと、こちらに向かって手を振った。
「好きなことは、農園の様子を見ること。好きな食べ物は、果実と肉の煮込み」
アーノルドが「好きだ」と言っていたことを復唱すると、彼は不思議そうな顔をして、それから表情を崩した。
「覚えてくれたのか。嬉しいな」
「はい」と頷くと、彼はくつくつと笑い声を立てた。
――何か笑われるようなことをしただろうか。
少し焦って、
「何か変なところがありましたか」
と聞くと、彼は「いやいや」と手を振った。
「笑ってすまない。いや、思っていたより、面白い方だなぁと――いや、良い意味なんだ。表現が悪くてすまない」
「良い意味ですか」
それなら良かった、とほっとすると、アーノルドはまた可笑しそうに笑った。
***
その日は、広がる農園の中心にある大きなお屋敷に泊まった。
この地域を治める領主の家だろうか。
「アーノルド様、よくいらっしゃいました」
屋敷から出てきたのはやっぱり獣人だったけれど、アーノルドのようなふさふさした尻尾ではなく、ひょろりと長い尾がズボンの後ろから出ている。
「――この地域の管轄をしている者だ」とアーノルドはその獣人を紹介した。
「リーゼロッテ様、道中問題はございませんでしたか」
私たちの後ろについた馬車からタニアが駆け出してきて、私の横に来る。
「はい。何の問題もありません」
私がそう答えると、タニアは周囲を見回した。屋敷周りの塀などに、ところどころ壊れた痕がある。
「この屋敷の主人は、もともとはあの獣人ではないはずです」
タニアはアーノルドと話し込むひょろりとした尻尾の獣人を見ながらそう耳打ちした。
「元の主人の方はどちらへ」
「――彼らは、領主たちを捕らえて連れて行き、王都で裁いているそうですよ」
「裁く」
私は言葉を繰り返した。罪人を裁いて処遇を決めることができるのは、ルピア王国ではお父様たち、国王陛下や貴族だ。アーノルドたちは貴族ではないと思うのだけれど。でも、彼は今ここの国の『王様』だというのだから、裁いて良いのか。
「そうですよ。獣人が貴族を裁くなど、許されません」
タニアは語気を強めて囁いた。
***
その屋敷で出された食事は今までに食べたことがないくらい美味しいもので、それこそお腹が膨れたのが服の上から見てわかるほど、食べてしまった。
その様子を見て、アーノルドはまた笑った。
よく笑う人だ。何がそんなに面白いのだろう、と思ったけれど、この人が笑った顔を見ているともう食られないのに、もっと食べれるような気持ちになる。
食後に案内された部屋はとても広くて、ベッドはふかふかだった。
「明日には王宮につくよ。おやすみ」
と声をかけて、アーノルドは廊下を去って行った。
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