33 / 34
33.
しおりを挟む
あれから――、モニカに指輪を渡したのがリアムだということがわかってから、しばらくが過ぎた。
国王様が調べた結果、やっぱりあの赤い石がついた指輪には、人の気持ちを操作するような不思議な力があったらしい。
そんなおとぎ話に出てくるようなものが本当にあるなんて、にわかに信じられることではなかったし、そんなものが隣の国にあるなんて大変なことだから、連絡はすぐにリアムのお父様――、隣国のアスティアの国王様にも伝わった。
すぐにリアムのお父様はこちらに来て、国王様との間で話し合いが行われた。
リアムのお父様のお話では、その指輪はリアムのお母様の形見で――、そんな力があったことは知らなかった、ということだった。
リアムのお母様は放浪民だったから、それは彼らにだけ伝わるものだろう、という結論になった指輪の赤い石は――私たちの見ている前で、叩かれて粉々に砕かれた。
指輪のことは、公にされなかった。
そんなものを使ってリアムがネイサン様を害そうとしたなんていうことが広まってしまえば、アスティアとの国の問題にもなってしまう。
今回の件は、リアムが私とネイサン様を引き離したかったという、個人的な動機でやったことだから、公に大きな問題にはしない、ということになった。
ただ、今後の関係を考えて、リアムの王位継承権を破棄され、アスティアに帰国し、遠方の開拓に加わることが決まった。
指輪の件を公にしないことで、ネイサン様がモニカの話を信じて私にホールで婚約破棄を告げた事件は、そのまま、ネイサン様が起こしたことになっている。
だから――、すっかり進んでいた婚約破棄の話を取りやめるとお父様に話した時には、お父様は目を丸くして絶句していた。
「本当に、婚約を復活させるのか?」
「止めておいた方が良い」となかなか首を縦に振ってくれなかったお父様だけど、ネイサン様と国王様が並んで会いに来たことで、ようやく頷いてくれた。
「――本当に申し訳ありませんでした」
頭を下げるネイサン様に「お父様には、本当の事を伝えた方が良いのではないかしら」と言うと、彼は「いや」と首を振った。
「僕がしてしまった事は取り消せないし、騒ぎにしたくはないから」
それから、私の手を取って言う。
「ルイーズがまた僕の隣に立ってくれているだけで、他に何もいらないから」
***
「ルイーズ、本当にネイサン様との婚約を復活させるの?」
事情を知らないローラも眉間に皺を寄せながら言った。
「リアム、急遽、帰国してしまうんですってね。国で何かあったのかしら? せっかく仲良くなったのに」
ローラは残念そうに呟く。
「――そうね。よくは知らないけれど、私はお見送りに行くわ」
私はそれだけ答えて、席を立った。
話し合いを終え、リアムはお父様と共に、アスティアに戻ることになった。
戻ってしまえば、開拓でずっと遠くに行ってしまう。今後、私たちと関わらないという誓約をしたので、もう会う事はなくなってしまうだろう。
もう会うことはない、それは当然なのだけれど。
最後に一言、何かを言ってやりたい気持ちだった。
***
「――迷惑をかけて、本当に申し訳なかった」
荷物をまとめたリアムは私とネイサン様に深く深く頭を下げた。
「本当に」
私はそう答えて、しばらく黙ってからまた口を開いた。
「本当に、迷惑だったわ」
大きく息を吐いて振り返ったリアムは私を見つめて、呟いた。
「ルイーズ、俺は、昔、君に会って話した事で、救われて、それから、君がずっと好きだった。――こんなことをせずに、きちんと伝えていればよかった。……本当にごめん」
馬車の扉が閉まって、リアムの姿は遠くに消えて行く。
――もし、リアムが正面から気持ちを伝えてくれていたら、私はどうしていたかしら。
そんなことを考えて、私は黙った。
リアムを見送った帰り際、城下町を通ったところで、ネイサン様が馬車の中から「あ」と声を上げた。窓の外、視線の先に、白い嫁入りの馬車が走って行った。
馬車の家紋はアシュタロト家。
退学の噂が広まり、城下町での生活が難しくなったモニカは、遠方の年配の商人の後妻として嫁ぐことになったという話を学園内で聞いていた。
私も窓を覗き込む。
白い馬車に乗っていたのは、確かにモニカだった。
彼女は私たちの視線に気づいたのか、一瞬向こうの窓からこちらを見た。――口元が「さようなら」と言っていた気がした。
「ルイーズ」
ネイサン様が私の手に自分の手を重ねていた。
「これからは何があっても、君に、正直に自分の気持ちを伝えるよ。もう一度チャンスをくれてありがとう。君が好きだよ」
私もその手を握り返して言った。
「私もです」
国王様が調べた結果、やっぱりあの赤い石がついた指輪には、人の気持ちを操作するような不思議な力があったらしい。
そんなおとぎ話に出てくるようなものが本当にあるなんて、にわかに信じられることではなかったし、そんなものが隣の国にあるなんて大変なことだから、連絡はすぐにリアムのお父様――、隣国のアスティアの国王様にも伝わった。
すぐにリアムのお父様はこちらに来て、国王様との間で話し合いが行われた。
リアムのお父様のお話では、その指輪はリアムのお母様の形見で――、そんな力があったことは知らなかった、ということだった。
リアムのお母様は放浪民だったから、それは彼らにだけ伝わるものだろう、という結論になった指輪の赤い石は――私たちの見ている前で、叩かれて粉々に砕かれた。
指輪のことは、公にされなかった。
そんなものを使ってリアムがネイサン様を害そうとしたなんていうことが広まってしまえば、アスティアとの国の問題にもなってしまう。
今回の件は、リアムが私とネイサン様を引き離したかったという、個人的な動機でやったことだから、公に大きな問題にはしない、ということになった。
ただ、今後の関係を考えて、リアムの王位継承権を破棄され、アスティアに帰国し、遠方の開拓に加わることが決まった。
指輪の件を公にしないことで、ネイサン様がモニカの話を信じて私にホールで婚約破棄を告げた事件は、そのまま、ネイサン様が起こしたことになっている。
だから――、すっかり進んでいた婚約破棄の話を取りやめるとお父様に話した時には、お父様は目を丸くして絶句していた。
「本当に、婚約を復活させるのか?」
「止めておいた方が良い」となかなか首を縦に振ってくれなかったお父様だけど、ネイサン様と国王様が並んで会いに来たことで、ようやく頷いてくれた。
「――本当に申し訳ありませんでした」
頭を下げるネイサン様に「お父様には、本当の事を伝えた方が良いのではないかしら」と言うと、彼は「いや」と首を振った。
「僕がしてしまった事は取り消せないし、騒ぎにしたくはないから」
それから、私の手を取って言う。
「ルイーズがまた僕の隣に立ってくれているだけで、他に何もいらないから」
***
「ルイーズ、本当にネイサン様との婚約を復活させるの?」
事情を知らないローラも眉間に皺を寄せながら言った。
「リアム、急遽、帰国してしまうんですってね。国で何かあったのかしら? せっかく仲良くなったのに」
ローラは残念そうに呟く。
「――そうね。よくは知らないけれど、私はお見送りに行くわ」
私はそれだけ答えて、席を立った。
話し合いを終え、リアムはお父様と共に、アスティアに戻ることになった。
戻ってしまえば、開拓でずっと遠くに行ってしまう。今後、私たちと関わらないという誓約をしたので、もう会う事はなくなってしまうだろう。
もう会うことはない、それは当然なのだけれど。
最後に一言、何かを言ってやりたい気持ちだった。
***
「――迷惑をかけて、本当に申し訳なかった」
荷物をまとめたリアムは私とネイサン様に深く深く頭を下げた。
「本当に」
私はそう答えて、しばらく黙ってからまた口を開いた。
「本当に、迷惑だったわ」
大きく息を吐いて振り返ったリアムは私を見つめて、呟いた。
「ルイーズ、俺は、昔、君に会って話した事で、救われて、それから、君がずっと好きだった。――こんなことをせずに、きちんと伝えていればよかった。……本当にごめん」
馬車の扉が閉まって、リアムの姿は遠くに消えて行く。
――もし、リアムが正面から気持ちを伝えてくれていたら、私はどうしていたかしら。
そんなことを考えて、私は黙った。
リアムを見送った帰り際、城下町を通ったところで、ネイサン様が馬車の中から「あ」と声を上げた。窓の外、視線の先に、白い嫁入りの馬車が走って行った。
馬車の家紋はアシュタロト家。
退学の噂が広まり、城下町での生活が難しくなったモニカは、遠方の年配の商人の後妻として嫁ぐことになったという話を学園内で聞いていた。
私も窓を覗き込む。
白い馬車に乗っていたのは、確かにモニカだった。
彼女は私たちの視線に気づいたのか、一瞬向こうの窓からこちらを見た。――口元が「さようなら」と言っていた気がした。
「ルイーズ」
ネイサン様が私の手に自分の手を重ねていた。
「これからは何があっても、君に、正直に自分の気持ちを伝えるよ。もう一度チャンスをくれてありがとう。君が好きだよ」
私もその手を握り返して言った。
「私もです」
33
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。
レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。
知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。
私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。
そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。
コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。
だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。
それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。
ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。
これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。
【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!? 今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!
黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。
そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※
良いものは全部ヒトのもの
猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。
ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。
翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。
一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。
『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』
憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。
自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる