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私の返事にリアムは一瞬間を置いて、呟いた。
「そう――そうか」
ネイサン様との婚約が破棄になったところに、私と婚約したいと言ってくれたリアムの申し出はとても有難かったし嬉しかった。
彼と過ごす時間も楽しかった。だけど――、学園の中庭、公園の噴水、街角のベンチ――どこに行ってもネイサン様とそこで過ごした時間を思い出してしまった。
そして――『僕が好きなのは、君だ。ルイーズ」――あのネイサン様の言葉が頭を消すことができなかった。
モニカと一緒にいた時のネイサン様の姿を思い出すのは辛い。
あんなことをしておいて、と思う。
だけど――、それでも私は……。
もう一度ネイサン様と向き合ってみたい。
「……ごめんなさい。でも、本当にありがとう」
そう言うと、リアムは「……謝らないでくれ」と頭を掻いた。
「返事を急に求めすぎた俺が悪かった。もっとゆっくり、時間をかけて決めてもらっていいから」
「そうじゃないの」
私は首を振って、彼を見つめた。
「私――、やっぱりネイサン様のことが吹っ切れていなくて……、もう一度、彼ときちんと話してみようと思うの……」
リアムはぴくりと眉を動かした。
「……本気でそう思っているのか? ネイサン王子は君という婚約者がありながら、他の女の妄言を信じて君を学園のホールで、他の大勢の前で貶めたんだぞ」
「それは」
そうだけど、と呟いて、私はリアムを見つめた。
「モニカが……ネイサン様の心を魔法の指輪で……操ったと言っていたの」
「モニカがそんなことを言ったのか?」
リアムは眉根を寄せて、表情を引きつらせた。
「ええ」と頷くと、彼は鼻を鳴らした。
「……魔法なんてものを、君は信じるのか?」
私は頷いた。確かに、魔法なんておとぎ話の中でしかないと思っていたけれど。
「――ネイサン様の様子はおかしかったから。考えれば考えるほど――そうとしか思えなくて……」
「ルイーズはネイサンのことを信頼しているんだな」
少し俯いてにリアムは呟いた。
「――ごめんなさい。あなたにこんな話をして」
私はもう一度謝ってから付け加えた。
「でも……あの時、ホールであなたが私の背中を支えてくれて、私、本当に嬉しかったわ」
「――当然だ」
リアムは俯き加減のまま、複雑な表情で首を振った。
「ゆっくりお話しできたかしら? そろそろ戻ろうと思うのだけれど」
私たちがしばらく無言で紅茶を見つめていると、大道芸を見終わったらしいエリアナ様とジュード様が席に戻って来た。
「楽しかったか?」
何事もなかったかのようにリアムは弟に笑いかける。
ジュード様は元気よく頷いた。それから、私にお礼を言った。
「今日は案内に付き合ってくれてありがとう。ルイーズのおかげで母も弟も楽しめたみたいだ」
「いいえ、とんでもないわ」
そう笑って答えて、ほっとした。ネイサン様ときちんと話をしたいと言う事で、リアムとの関係がギクシャクしてしまったらどうしようかと不安だったけれど……普通に友達同士として接していけそうで、良かったわ。
「そう――そうか」
ネイサン様との婚約が破棄になったところに、私と婚約したいと言ってくれたリアムの申し出はとても有難かったし嬉しかった。
彼と過ごす時間も楽しかった。だけど――、学園の中庭、公園の噴水、街角のベンチ――どこに行ってもネイサン様とそこで過ごした時間を思い出してしまった。
そして――『僕が好きなのは、君だ。ルイーズ」――あのネイサン様の言葉が頭を消すことができなかった。
モニカと一緒にいた時のネイサン様の姿を思い出すのは辛い。
あんなことをしておいて、と思う。
だけど――、それでも私は……。
もう一度ネイサン様と向き合ってみたい。
「……ごめんなさい。でも、本当にありがとう」
そう言うと、リアムは「……謝らないでくれ」と頭を掻いた。
「返事を急に求めすぎた俺が悪かった。もっとゆっくり、時間をかけて決めてもらっていいから」
「そうじゃないの」
私は首を振って、彼を見つめた。
「私――、やっぱりネイサン様のことが吹っ切れていなくて……、もう一度、彼ときちんと話してみようと思うの……」
リアムはぴくりと眉を動かした。
「……本気でそう思っているのか? ネイサン王子は君という婚約者がありながら、他の女の妄言を信じて君を学園のホールで、他の大勢の前で貶めたんだぞ」
「それは」
そうだけど、と呟いて、私はリアムを見つめた。
「モニカが……ネイサン様の心を魔法の指輪で……操ったと言っていたの」
「モニカがそんなことを言ったのか?」
リアムは眉根を寄せて、表情を引きつらせた。
「ええ」と頷くと、彼は鼻を鳴らした。
「……魔法なんてものを、君は信じるのか?」
私は頷いた。確かに、魔法なんておとぎ話の中でしかないと思っていたけれど。
「――ネイサン様の様子はおかしかったから。考えれば考えるほど――そうとしか思えなくて……」
「ルイーズはネイサンのことを信頼しているんだな」
少し俯いてにリアムは呟いた。
「――ごめんなさい。あなたにこんな話をして」
私はもう一度謝ってから付け加えた。
「でも……あの時、ホールであなたが私の背中を支えてくれて、私、本当に嬉しかったわ」
「――当然だ」
リアムは俯き加減のまま、複雑な表情で首を振った。
「ゆっくりお話しできたかしら? そろそろ戻ろうと思うのだけれど」
私たちがしばらく無言で紅茶を見つめていると、大道芸を見終わったらしいエリアナ様とジュード様が席に戻って来た。
「楽しかったか?」
何事もなかったかのようにリアムは弟に笑いかける。
ジュード様は元気よく頷いた。それから、私にお礼を言った。
「今日は案内に付き合ってくれてありがとう。ルイーズのおかげで母も弟も楽しめたみたいだ」
「いいえ、とんでもないわ」
そう笑って答えて、ほっとした。ネイサン様ときちんと話をしたいと言う事で、リアムとの関係がギクシャクしてしまったらどうしようかと不安だったけれど……普通に友達同士として接していけそうで、良かったわ。
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