【完結】婚約破棄をめぐる思惑~魅了の指輪を使われて婚約破棄されました~

蜜柑

文字の大きさ
上 下
20 / 34

20.

しおりを挟む
「ルイーズ?」

 授業が終わったところで、ローラに声をかけられて私ははっと顔をあげる。

「ルイーズってば、心ここにあらずって感じね。週末のリアムとの予定でも考えていた?」

 友達はからかうような口調で私の頬をつまんだ。
 私は「もう」と笑いながらその手を払った。


だけど……、

『僕が好きなのは君だ、ルイーズ』

 頭の中を回っていたのは、あの時のネイサン様の言葉だった。

 ネイサン様が私に謝罪をした時から、もう2週間経っていた。モニカは学園を去って、ネイサン様は謹慎で登校してきていない。
 
 あの謝罪のおかげで……、学園の皆の私に対する反応は同情に一本化されたようだった。
 会う人会う人に、「災難だったわね」と言われる。

「全く、ネイサン様はあんな女の言う事をそのまま信じて」
「王太子様がそんなんじゃ呆れてしまうわ」
「婚約破棄と言われて逆に良かったのよ」

 会う人、会う人がネイサン様についてそんなことを言った。

 お父様はネイサン様との婚約破棄を正式に進め、私とネイサン様は婚約者同士ではなくなった。

 けれど……、モニカが言っていたように、本当に人の心を操るような魔法があって、それでネイサン様があんな風になっていたのだとしたら。――ネイサン様は悪くないじゃない。

 そうだとしたら……、私はネイサン様と前と同じように過ごすこも……できる、かしら。

 モニカの横で私を冷たい目で見つめるネイサン様を思い出して、私は肩を抱いた。
 ――同じようには、できないと思う。
 あんな目で見つめられた後では。

「ルイーズ、今週末はリアムとどこに行くの?」

 そう……、それに、今の私には『婚約を考えて欲しい』と言ってくれたリアムがいる。
 彼と過ごす時間は楽しくて、充実している。
 
「今週末はアスティアからお母様と弟さんが来るんだって。ご案内を一緒にする予定よ」

 そう答えると、ローラはまたからかうように言った。

「まぁ、あちらのご家族と一緒に週末を過ごすの? それって、もう公認ってことじゃない?」

 私は苦笑して、「……そうね」と呟いた。
 そして答えてからはっとする。

――どうして、心からの笑顔で「そうなの」と答えられないのかしら。
 
 振り払おうとしても、頭の隅にはネイサン様の姿があった。

***

 その週の週末の夜、私は王宮で開かれた歓迎の夜会でリアムのお母様と弟に会った。

「エリアナ様、ジュード様、初めまして。ルイーズと申します」

 そう挨拶すると、彼のお母様のエリアナ様は優雅に笑った。

「まぁ、あなたがルイーズね。リアムの初恋の……」

「母上!」

 焦ったように口を挟んだリアムにエリアナ様はローラが私をからかうときのような笑顔になった。

「まぁ、いいじゃないの。探していた彼女がいたってあんなに嬉しそうな手紙をよこしたくせに」

 そんな母親を押しのけて、小さい男の子がリアムの足にしがみついた。
 ――弟のジュードね。

「兄上! 僕、兄上がこちらに行っている間に、馬に上手に乗れるようになったんですよ! 明日見てください!!」

 
「ああ、見る。見る。ルイーズ、悪いけど明日、朝、ジュードの乗馬に付き合ってもらってもいいかな」

「もちろん」

 私が頷くと、ジュードはリアムの陰に隠れるようにじーっと私を見た。

「兄上、このひと、誰?」

「俺が婚約を申し込んでいる人だ」

 事も無げにリアムがそう言うので私は赤面してしまった。

「あなたがこっちへ留学してしまってから、ジュードが寂しがって、勉強のやる気もなくなってしまって……、でも、会いに連れて行ってあげるから、兄上に報告できるように頑張りなさいと言ったらやる気を出してくれたわ」

 エリアナ様は兄弟を見ながら微笑ましそうな笑顔で言った。

 リアムのお母様と言われると、とても若い人だ。お姉さんと言ってもいいくらいかもしれない。お母様もジュードもとても綺麗な金髪をしている。
 
 ……くるっとした黒髪のリアムとは似ていない。

 放浪民から国王と結婚したリアムのお母様は確か彼が小さい頃に病気で亡くなっているはずだから……、エリアナ様はその後にできた義理のお母様、ジュードは腹違いの弟ということになると思うけれど。

「お母様と弟さんととても仲が良いのね」

 二人から離れて、私とリアムで踊ることになった時にそう言うと、彼は微妙な表情で微笑んだ。

「ああ……そうなんだ」

 私は少し首を傾げた。それは、「そうなんだ!」という肯定の笑顔じゃなく、苦笑の混ざった複雑な笑顔だったから。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...