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10.(モニカ視点)
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「占い師?」
「そう。デートで行った方が良い場所とか相談したら……、すっごく当たって、そこに行ったら彼が婚約者と別れてくれるっていうから行ってみたら、本当に別れてくれたの!」
その子は、婚約者のいる男爵家の息子だかなんかと浮気していたんだけど、つい数日前に、その彼が婚約者との婚約を破棄して、その子と正式に付き合い出したんだった。
その話を聞いて……、最初はほんの興味本位で、私はその占い師のところに行ってみることにした。
夜に屋敷を抜け出して、広場で開かれている夜市に行ってみると、黒いフードの仮面をつけた、老人のようなしゃがれた声の人が、「私を捜しに来たね」って向こうから声をかけてきて……。私はそのままその占い師の露店についていった。
「好きな人がいるのに、自分のものにならないと悩んでいるね」
私の気持ちを言い当てた占い師は私に、あの指輪を渡した。
「美しいのに可哀そうに。この指輪にあんたの涙をかけると、周囲の人はあんたに魅了され、言う事を聞くようになるよ」
赤い石がはまった指輪だった。
「嘘でしょう」って言ったら、「とりあえずあげるから試してみなさい」って押し付けるように私の手に渡してきた。
だから、私は半信半疑でそれを身に着けて家に帰った。
……そしたら、夜に家を出たことに気づいたお父様が、
「――はしたない。未だに貴族の相手も見つけられず何をやっているんだ。せっかく貴族学院に入れてやってるのに」
って怒ってきて、「結婚相手を見つける気がないなら、見合いをするぞ」って言い出すから。
私はネイサン様のことしか頭になかったから、良く知らない親が決めてきた相手となんかお見合いしたくないし、泣いて……それで、占い師の言葉を思い出して、その涙をもらった指輪にかけてみたの。
そうしたら、お父様「お前の気持ちも考えずにすまなかった」とか言って折れてきて。今までだったら自分が決めたことを私が意見したからって覆すことなんて絶対あり得なかったのに……。
私は確信したわ。――この指輪の効果は本物だって。
それから私はネイサン様に近づいた。
指輪の力で、ネイサン様は私に「好き」って言ってくれて、私がネイサン様に言って欲しい言葉を何でも言ってくれるようになった。
……だけど、二人で一緒に学園の庭園でお花を見ていた時に、私の事を「ルイーズ」って呼んだの。
私はそれが許せなかった。侯爵令嬢って言うだけでネイサン様の婚約者になったあの女がまだネイサン様の頭の中にいるって思ったわ。
だから……ルイーズもどうせ他の令嬢様たちと同じで、私を見下してる卑しい女だって皆に見せつけて、婚約破棄させてやろうって思ったの。
***
「モニカ、本当についていなくて大丈夫かい?」
「ええ、送ってくださってありがとう」
私はネイサン様にお礼を言うと、一人で部屋にこもった。
……あの占い師に会って、魔法の事を確認しないと。
服を着替えると、城下町へ繰り出した。
広場では夜市に向けて、行商人がお店を設置しだしていた。
あの占い師はまだいるかしら。
周囲をきょろきょろしながら広場の周辺を歩いていると、
「私を探しているね」
不意に声をかけられて、私は小さく叫んで振り向いた。
そこには黒いフードと奇妙な仮面を被ったを被ったあの占い師がいた。
「……そうよ、あなたに聞きたいことがあるの」
私は指輪をはめた手を真っ直ぐに伸ばした。
「この指輪……急に効果がなくなったみたいだけど……、どうして?」
深いため息を吐いて、占い師は呆れたように言った。
「あんたはやり過ぎたんだ。相手の心を得るだけにしとけばいいものを、相手以外を陥れようとしただろ」
「……そんな! だってネイサン様を完全に手に入れようとしたら、婚約破棄させる必要があったもの!」
「それなら、それだけさせれば良かった。怪我をさせようとしたり、大勢の前で恥をかかせるようなことまでさせる必要はなかったはず」
……まるで見てきたような言い方に、私は硬直した。
この占い師……何なの?
「これ以上、お前には魔法は与えられないよ。指輪は返してもらう」
固まって立ち尽くす私の右手から、占い師はすっと指輪を抜いてしまった。
「――待ちなさい、待ちなさいよっ」
ようやく口が動いて、叫んだ時には――、広場の雑踏に黒いローブの占い師の姿はなくなっていた。
「そう。デートで行った方が良い場所とか相談したら……、すっごく当たって、そこに行ったら彼が婚約者と別れてくれるっていうから行ってみたら、本当に別れてくれたの!」
その子は、婚約者のいる男爵家の息子だかなんかと浮気していたんだけど、つい数日前に、その彼が婚約者との婚約を破棄して、その子と正式に付き合い出したんだった。
その話を聞いて……、最初はほんの興味本位で、私はその占い師のところに行ってみることにした。
夜に屋敷を抜け出して、広場で開かれている夜市に行ってみると、黒いフードの仮面をつけた、老人のようなしゃがれた声の人が、「私を捜しに来たね」って向こうから声をかけてきて……。私はそのままその占い師の露店についていった。
「好きな人がいるのに、自分のものにならないと悩んでいるね」
私の気持ちを言い当てた占い師は私に、あの指輪を渡した。
「美しいのに可哀そうに。この指輪にあんたの涙をかけると、周囲の人はあんたに魅了され、言う事を聞くようになるよ」
赤い石がはまった指輪だった。
「嘘でしょう」って言ったら、「とりあえずあげるから試してみなさい」って押し付けるように私の手に渡してきた。
だから、私は半信半疑でそれを身に着けて家に帰った。
……そしたら、夜に家を出たことに気づいたお父様が、
「――はしたない。未だに貴族の相手も見つけられず何をやっているんだ。せっかく貴族学院に入れてやってるのに」
って怒ってきて、「結婚相手を見つける気がないなら、見合いをするぞ」って言い出すから。
私はネイサン様のことしか頭になかったから、良く知らない親が決めてきた相手となんかお見合いしたくないし、泣いて……それで、占い師の言葉を思い出して、その涙をもらった指輪にかけてみたの。
そうしたら、お父様「お前の気持ちも考えずにすまなかった」とか言って折れてきて。今までだったら自分が決めたことを私が意見したからって覆すことなんて絶対あり得なかったのに……。
私は確信したわ。――この指輪の効果は本物だって。
それから私はネイサン様に近づいた。
指輪の力で、ネイサン様は私に「好き」って言ってくれて、私がネイサン様に言って欲しい言葉を何でも言ってくれるようになった。
……だけど、二人で一緒に学園の庭園でお花を見ていた時に、私の事を「ルイーズ」って呼んだの。
私はそれが許せなかった。侯爵令嬢って言うだけでネイサン様の婚約者になったあの女がまだネイサン様の頭の中にいるって思ったわ。
だから……ルイーズもどうせ他の令嬢様たちと同じで、私を見下してる卑しい女だって皆に見せつけて、婚約破棄させてやろうって思ったの。
***
「モニカ、本当についていなくて大丈夫かい?」
「ええ、送ってくださってありがとう」
私はネイサン様にお礼を言うと、一人で部屋にこもった。
……あの占い師に会って、魔法の事を確認しないと。
服を着替えると、城下町へ繰り出した。
広場では夜市に向けて、行商人がお店を設置しだしていた。
あの占い師はまだいるかしら。
周囲をきょろきょろしながら広場の周辺を歩いていると、
「私を探しているね」
不意に声をかけられて、私は小さく叫んで振り向いた。
そこには黒いフードと奇妙な仮面を被ったを被ったあの占い師がいた。
「……そうよ、あなたに聞きたいことがあるの」
私は指輪をはめた手を真っ直ぐに伸ばした。
「この指輪……急に効果がなくなったみたいだけど……、どうして?」
深いため息を吐いて、占い師は呆れたように言った。
「あんたはやり過ぎたんだ。相手の心を得るだけにしとけばいいものを、相手以外を陥れようとしただろ」
「……そんな! だってネイサン様を完全に手に入れようとしたら、婚約破棄させる必要があったもの!」
「それなら、それだけさせれば良かった。怪我をさせようとしたり、大勢の前で恥をかかせるようなことまでさせる必要はなかったはず」
……まるで見てきたような言い方に、私は硬直した。
この占い師……何なの?
「これ以上、お前には魔法は与えられないよ。指輪は返してもらう」
固まって立ち尽くす私の右手から、占い師はすっと指輪を抜いてしまった。
「――待ちなさい、待ちなさいよっ」
ようやく口が動いて、叫んだ時には――、広場の雑踏に黒いローブの占い師の姿はなくなっていた。
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