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【2】婚約披露宴と余波
29.「――後始末、つけるわよ……」
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「――修介さん、お久しぶりです」
華は修介に深く頭を下げた。
あれから――修介が家に訪ねてきて、母親と口論してから――、母親は荷物をまとめて家を出て行った。今は実家に帰っているらしい。
『さっさと荷物をまとめて出て行って』と母に言ったことは後悔はしていない。むしろすっきりとした。
(私はお姉さまと違ってお母さまの駒じゃないわ)
綾子が自分の予想に反して、何かを乗り越えたような清々しい姿でいたからなんだと言うんだ。
(修介さんは藤宮 綾子じゃなくて、私を選んだのだもの)
だから、自分の方が綾子より優っている。
そう繰り返して気持ちを落ち着かせた。
事態を収拾しなければ。
予定通り、このまま修介との結婚の話を進めればそれで良い。
だから、修介のもとに話をしに来たのだ。
「華ちゃん……久しぶりの前に、言うことない?」
応接室で向かい合った修介は、腕組みをしてため息交じりに言った。
(言うことない――って、あなたこそ、もっと、心配する、言葉とか)
華は口元をぴくっとさせて一瞬黙り込んだが、思い直したように再度ぺこりと頭を下げる。
「先日は――ごめんなさい。体調が急に悪くなってしまって」
修介は「はぁぁぁ」と大きく息を吐いた。
「体調悪いのくらいさ、我慢できなかったの? 時間かけて準備した宴席だったじゃん、お客さんもたくさん呼んでたんだしさぁ」
(……準備したのは、全部私だったけど)
華は心の中でそうぼやいた。
会場の手配・料理の手配・来賓招待の手配などほぼ全ての作業は華1人で行ったのだった。喉まで出かかった言葉を飲み込んで、「しゅん」とした表情を作る。
「ごめんなさい……」
「……まあ、やっちゃったものは、もう仕方がないよな」
修介は「華ちゃんは、しょうがないなぁ」と頷くと華の頭をぽんぽんとたたいた。
それから大きくため息を吐いてから、華の顔を覗き込んでたずねた。
「――それで、どう収拾つけるの?」
「――え?」
華は思わず声が裏返る。
「式台無しにしちゃって、俺の面目丸つぶれじゃん。来賓の方たちに、謝罪きちんとしないとだろ」
(『俺の』面目)
華はぎりっと唇を噛んだ。
(『私』は?)
「――それは、そうですね……」
「華ちゃんが勝手に飛び出しちゃったわけだからさ、華ちゃんがきちんと後始末つけないとだよね?」
(勝手に、飛び出したのは、私だけど、でも)
「……」
修介は再度華の顔を覗き込んで念押しした。
「ね?」
ぶちっと華の中で何かが切れる音がした。
「――後始末、つけるわよ……」
華は床を見つめたまま静かに呟くと、一呼吸置いて、修介を見上げてきっと睨みつけた。
「修介さん、あなたとの婚約なんか、破棄するわ!」
狼狽したのは修介だ。
「……な? 何を言ってるんだよ、華ちゃん」
「『俺の面目』って何よ……! 普通、『二人の面目』でしょお……!?」
華はどんっと床を踏み鳴らす。
「あなたのことなんか! 別に『ちょうど良い』って思っただけだから! 藤宮 綾子の婚約者だったから、手を出してみただけなんだから! ちょっとこっちが媚びたら馬鹿みたいに鼻の下伸ばして、馬鹿なんでしょ」
修介は怒涛のように溢れ出す言葉に圧倒されて、たじっと一歩後ろへ下がった。
「だいたい、いっつも私の話なんか聞いてくれなくて、自分の話ばっかりしてっ! こっちが下手に出てみれば見下して! 何が5番隊の柱よ! あなたなんかより、お姉さまの方がぜんぜん強かったんだから!」
華はばたばたと駄々っ子のように足を動かすと、修介を睨みつけた。
「もういい! 修介さんなんか、もういい!」
「はぁ?」
修介は腕を組むと声を張り上げた。
「なんだよ! 生意気だな! 華ちゃんの本性がそんなだったって、隊のみんなにも話すよ?」
「お好きにすれば? 事実をありのまま話したらいいんじゃないですかあ? 浮気相手の6つも下の女と婚約披露宴して、相手が体調不良で宴席を抜けて謝りに来たら、『自分の面目が台無しだから、どう落とし前付けるんだ』って責めたって、そのまま事実を言ったらどうですかあ?」
華は涙をぬぐうと、ふっと自嘲気味に笑った。
「皆さん、どう言うでしょうね。ああ、私から先に皆さんにそう話しておきますねっ」
「……な!」
修介は怒りで顔を赤くした。
華の話をそのまま聞くと、自分が器の小さい男に聞こえるではないか。
「それでは、修介さん、さようなら」
華はぺこりと頭を下げると、応接室から出て行った。
「……」
修介は「状況が理解できない」という表情で、華が出て行った開けっ放しの扉を呆然と見つめた。
華は修介に深く頭を下げた。
あれから――修介が家に訪ねてきて、母親と口論してから――、母親は荷物をまとめて家を出て行った。今は実家に帰っているらしい。
『さっさと荷物をまとめて出て行って』と母に言ったことは後悔はしていない。むしろすっきりとした。
(私はお姉さまと違ってお母さまの駒じゃないわ)
綾子が自分の予想に反して、何かを乗り越えたような清々しい姿でいたからなんだと言うんだ。
(修介さんは藤宮 綾子じゃなくて、私を選んだのだもの)
だから、自分の方が綾子より優っている。
そう繰り返して気持ちを落ち着かせた。
事態を収拾しなければ。
予定通り、このまま修介との結婚の話を進めればそれで良い。
だから、修介のもとに話をしに来たのだ。
「華ちゃん……久しぶりの前に、言うことない?」
応接室で向かい合った修介は、腕組みをしてため息交じりに言った。
(言うことない――って、あなたこそ、もっと、心配する、言葉とか)
華は口元をぴくっとさせて一瞬黙り込んだが、思い直したように再度ぺこりと頭を下げる。
「先日は――ごめんなさい。体調が急に悪くなってしまって」
修介は「はぁぁぁ」と大きく息を吐いた。
「体調悪いのくらいさ、我慢できなかったの? 時間かけて準備した宴席だったじゃん、お客さんもたくさん呼んでたんだしさぁ」
(……準備したのは、全部私だったけど)
華は心の中でそうぼやいた。
会場の手配・料理の手配・来賓招待の手配などほぼ全ての作業は華1人で行ったのだった。喉まで出かかった言葉を飲み込んで、「しゅん」とした表情を作る。
「ごめんなさい……」
「……まあ、やっちゃったものは、もう仕方がないよな」
修介は「華ちゃんは、しょうがないなぁ」と頷くと華の頭をぽんぽんとたたいた。
それから大きくため息を吐いてから、華の顔を覗き込んでたずねた。
「――それで、どう収拾つけるの?」
「――え?」
華は思わず声が裏返る。
「式台無しにしちゃって、俺の面目丸つぶれじゃん。来賓の方たちに、謝罪きちんとしないとだろ」
(『俺の』面目)
華はぎりっと唇を噛んだ。
(『私』は?)
「――それは、そうですね……」
「華ちゃんが勝手に飛び出しちゃったわけだからさ、華ちゃんがきちんと後始末つけないとだよね?」
(勝手に、飛び出したのは、私だけど、でも)
「……」
修介は再度華の顔を覗き込んで念押しした。
「ね?」
ぶちっと華の中で何かが切れる音がした。
「――後始末、つけるわよ……」
華は床を見つめたまま静かに呟くと、一呼吸置いて、修介を見上げてきっと睨みつけた。
「修介さん、あなたとの婚約なんか、破棄するわ!」
狼狽したのは修介だ。
「……な? 何を言ってるんだよ、華ちゃん」
「『俺の面目』って何よ……! 普通、『二人の面目』でしょお……!?」
華はどんっと床を踏み鳴らす。
「あなたのことなんか! 別に『ちょうど良い』って思っただけだから! 藤宮 綾子の婚約者だったから、手を出してみただけなんだから! ちょっとこっちが媚びたら馬鹿みたいに鼻の下伸ばして、馬鹿なんでしょ」
修介は怒涛のように溢れ出す言葉に圧倒されて、たじっと一歩後ろへ下がった。
「だいたい、いっつも私の話なんか聞いてくれなくて、自分の話ばっかりしてっ! こっちが下手に出てみれば見下して! 何が5番隊の柱よ! あなたなんかより、お姉さまの方がぜんぜん強かったんだから!」
華はばたばたと駄々っ子のように足を動かすと、修介を睨みつけた。
「もういい! 修介さんなんか、もういい!」
「はぁ?」
修介は腕を組むと声を張り上げた。
「なんだよ! 生意気だな! 華ちゃんの本性がそんなだったって、隊のみんなにも話すよ?」
「お好きにすれば? 事実をありのまま話したらいいんじゃないですかあ? 浮気相手の6つも下の女と婚約披露宴して、相手が体調不良で宴席を抜けて謝りに来たら、『自分の面目が台無しだから、どう落とし前付けるんだ』って責めたって、そのまま事実を言ったらどうですかあ?」
華は涙をぬぐうと、ふっと自嘲気味に笑った。
「皆さん、どう言うでしょうね。ああ、私から先に皆さんにそう話しておきますねっ」
「……な!」
修介は怒りで顔を赤くした。
華の話をそのまま聞くと、自分が器の小さい男に聞こえるではないか。
「それでは、修介さん、さようなら」
華はぺこりと頭を下げると、応接室から出て行った。
「……」
修介は「状況が理解できない」という表情で、華が出て行った開けっ放しの扉を呆然と見つめた。
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