30 / 40
1.令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
30.
しおりを挟む
服を片付けて1階に降りると、アルヴィンがキッチンに立って料理をしていた。買っていた色々な野菜を切って、お肉と一緒に鍋に入れて煮込んでいる。空中に野菜が浮き上がって、すぱすぱっと切れて鍋に落ちる様子に、思わず拍手をしそうになった。
……何でも魔法で切るためか、この家にはナイフがない。手伝いたくても手伝えないので、私は椅子に座って、アルヴィンの方へ行こうとするジャックの気をボールで逸らして遊んであげていた。私も早く、使える魔法の種類を増やさないと。
「シチューにしてみた」
アルヴィンがとんとんっと机の上に料理を並べた。ほかほか湯気の立つ温かい食事。私は夢中でそれを口に運んだ。――染み渡るっていうのは、こういうことを言うんだろう。思わず天井を仰いで味を噛み締めた。
食べ終わるころには窓の外はすっかり薄暗くなりかけていて、部屋の中も暗くなっていた。
「メリル、ランプに火をつけるのを手伝ってくれないか」
「うん!」
ようやくできることがある!
仕事を与えられて、私は意気揚々と立ち上がると部屋の隅や机の上に置かれたランプに魔法で火をつけた。
部屋の中がぼんやりと明るい炎のオレンジの灯りで照らされる。
「ランプを使うのも……いつ以来かな」
アルヴィンはそう呟くと、ソファに座って横に置いてあった本を手に取って読み始めた。
私はそれを覗き込む。そろそろ火と水の魔法は扱えるようになってきたし……、手持ち無沙汰な時間ができてしまう。
屋敷にいるときは、私もずっと本を読んでいるか、絵を描いているかだった。
アルヴィンはいつもどんな本を読んでいるんだろう。
「……? これ……何語?」
そんな気持ちで覗き込んだ本は、手書きの文字でびっしりと見たことがない文字が記されていて、私は思わず呟いた。「ああ」とアルヴィンが顔を上げると、頭を掻きながら答えた。
「魔法文字なんだ。師匠が残した本なんだけど、何書いてあるかわかんないだろ。俺も全部はわからないんだ」
「魔法文字?」
「空間魔法に使ったり、魔法陣なんかに使う文字だよ。精霊の力を文字で表現してるって言ったらいいのか……」
「アルヴィンにもわからないの?」
「全部はね。だから、解読するのにすごく時間がかかるけど……、時間はあるから、ちょうど良かったんだ」
「そうなのね……。私も家にいたときはずっと本を読んでいたけれど。ここにはそういう本はないのかしら?」
「――どういう本?」
「物語のような――」
「物語――か。そういうのはないな」
アルヴィンはぱたんと本を閉じて私のことを見つめた。
「俺はそういう本を読んだことがないんだが、どんな話なんだ?」
「そうね――」
私は言葉に詰まる。どんなっていったって、色々な話があるから、どう話せばいいんだろう。
「君の一番好きな話は? それを教えてくれ」
一番好きな話、と聞かれて、私は1つ思いついた。屋敷から出ない生活で、ずっと何度も繰り返し同じ本を読んでいたから、話の一語一句を諳んじることができる。
「それじゃあ――」
こほん、と咳払いして、私は物語を語り始めた。
「昔々あるところに女の子が父親と二人で暮らしていました。彼女の父親は色々な国々で珍しいものを買い付けてくる商人をしていて、旅先からいつも女の子に珍しいものを送ってくれていました。女の子の母親は彼女を生んですぐに亡くなってしまいましたが、女の子は父親と二人で慎ましく幸せに暮らしていました。でもある日――、旅先から帰って来た父親は、1人の女性と、彼女の二人の娘を連れて帰って来たのです」
「再婚か」
アルヴィンが重々しく相槌をするので、私は少し笑ってしまった。
「そう、そう、再婚ね。それで――、父親は彼女たちを『新しいお母さんとお姉さんだよ』と紹介します。女の子は家の中が賑やかになるわ、とても喜びました。だけど――、父親がまた旅に出ると、新しい義母と義姉たちは態度を豹変させたのです。家のことは女の子に全て任せ、自分たちは遊び放題。女の子はいつも白い埃をかぶっていたので、彼女たちは面白がって女の子を本当の名前ではなく『灰かぶり』と呼びました」
「――ひどいな。何で、父親はそんな女を好きになったんだ?」
アルヴィンは眉根を寄せて首を傾げた。
確かに、そこは気にしたことがなかったけれど。
「わからないわ。外面は良かったんじゃないかしら」
「父親は騙されたのか。――でも、父親にも責任があるよな」
私は苦笑した。ここまで話に聞き入ってくれると話甲斐があるけれど、一向に続きが進まない。私は時折口をはさむアルヴィンを制止しつつ、『灰かぶり』が王子様と出会って結婚するまでを話し終えた。
「――そして二人はその後いつまでも幸せに暮らしました。――お終い」
私は話続けて喉が渇いたので、コップに魔法で水を入れて一口飲むと、アルヴィンを見た。
「ちょっと子どもっぽいお話かしら――、え、アルヴィン?」
アルヴィンは若干瞳を潤ませている。
「良かったな――、幸せになって――。君はどうしてこの話が好きなんだ?」
「――挿絵が素敵なのよ。『灰かぶり』はキラキラした青いドレスを着ていて。――ねえ、このお話の魔女はカボチャを馬車に変えたり、素敵なドレスに着替えさせたりしてくれるけど、そういう魔法もあるの?」
「あるよ。キラキラした青いドレスか――、例えば、ほら」
アルヴィンは頷くと、指をくるっと回した。
途端私の着ている薄い青のドレスがぱあっと輝き出した。
「すごいわね」
私は思わず気持ちが舞い上がって手を胸の前で組んで飛び跳ねた。
「灯りを消してみるともっと良いか」
アルヴィンはそう呟くと指を回した。ふわっと風が起きて、さっきつけたランプが消える。家の中は薄暗い暗闇に包まれて、ふわっと光るドレスが浮き上がって見えた。
お話の挿絵みたい。
私は感動してくるりと回ってみた。
「どうかしら」
感想を求めてアルヴィンの顔を見つめると、彼はじっと押し黙ったまま私を見返した。
しばらくの沈黙が流れる。
「――似合ってる」
アルヴィンは呟くと、ズボンのポケットに手を入れた。
「――これ」
おもむろに出したのは、キラキラした石のついた髪留めだった。
「似合うかと思って、買ったんだけど――」
たどたどしい口調言いながら、アルヴィンはそれを私に差し出した。
――街で買ったのかしら――?
いつの間に?
「――綺麗ね」
ドレスの光を返してきらっと輝く髪飾りは、本当に綺麗に見えた。私は胸を押さえながら、アルヴィンを見上げた。
「――つけてくれる?」
アルヴィンは無言で頷くと、私に一歩近づいて、抱き寄せるように肩に手を回すと、後ろで編み込んだ私の茶色いくせ毛編み目にに髪飾りをゆっくりと挿し込んだ。
「――似合ってる」
低い、耳に心地よいアルヴィンの声が聞こえて、私は「ありがとう」と言おうとゆっくり首を持ち上げた。さっぱりした髪からはっきり見えるアルヴィンの青い瞳と目と目が合う。
「ありがとう」の言葉がなかなか出なかった。しばらくの沈黙ののち、どちらともなく私たちは顔を近づけ、唇を重ねた。
……何でも魔法で切るためか、この家にはナイフがない。手伝いたくても手伝えないので、私は椅子に座って、アルヴィンの方へ行こうとするジャックの気をボールで逸らして遊んであげていた。私も早く、使える魔法の種類を増やさないと。
「シチューにしてみた」
アルヴィンがとんとんっと机の上に料理を並べた。ほかほか湯気の立つ温かい食事。私は夢中でそれを口に運んだ。――染み渡るっていうのは、こういうことを言うんだろう。思わず天井を仰いで味を噛み締めた。
食べ終わるころには窓の外はすっかり薄暗くなりかけていて、部屋の中も暗くなっていた。
「メリル、ランプに火をつけるのを手伝ってくれないか」
「うん!」
ようやくできることがある!
仕事を与えられて、私は意気揚々と立ち上がると部屋の隅や机の上に置かれたランプに魔法で火をつけた。
部屋の中がぼんやりと明るい炎のオレンジの灯りで照らされる。
「ランプを使うのも……いつ以来かな」
アルヴィンはそう呟くと、ソファに座って横に置いてあった本を手に取って読み始めた。
私はそれを覗き込む。そろそろ火と水の魔法は扱えるようになってきたし……、手持ち無沙汰な時間ができてしまう。
屋敷にいるときは、私もずっと本を読んでいるか、絵を描いているかだった。
アルヴィンはいつもどんな本を読んでいるんだろう。
「……? これ……何語?」
そんな気持ちで覗き込んだ本は、手書きの文字でびっしりと見たことがない文字が記されていて、私は思わず呟いた。「ああ」とアルヴィンが顔を上げると、頭を掻きながら答えた。
「魔法文字なんだ。師匠が残した本なんだけど、何書いてあるかわかんないだろ。俺も全部はわからないんだ」
「魔法文字?」
「空間魔法に使ったり、魔法陣なんかに使う文字だよ。精霊の力を文字で表現してるって言ったらいいのか……」
「アルヴィンにもわからないの?」
「全部はね。だから、解読するのにすごく時間がかかるけど……、時間はあるから、ちょうど良かったんだ」
「そうなのね……。私も家にいたときはずっと本を読んでいたけれど。ここにはそういう本はないのかしら?」
「――どういう本?」
「物語のような――」
「物語――か。そういうのはないな」
アルヴィンはぱたんと本を閉じて私のことを見つめた。
「俺はそういう本を読んだことがないんだが、どんな話なんだ?」
「そうね――」
私は言葉に詰まる。どんなっていったって、色々な話があるから、どう話せばいいんだろう。
「君の一番好きな話は? それを教えてくれ」
一番好きな話、と聞かれて、私は1つ思いついた。屋敷から出ない生活で、ずっと何度も繰り返し同じ本を読んでいたから、話の一語一句を諳んじることができる。
「それじゃあ――」
こほん、と咳払いして、私は物語を語り始めた。
「昔々あるところに女の子が父親と二人で暮らしていました。彼女の父親は色々な国々で珍しいものを買い付けてくる商人をしていて、旅先からいつも女の子に珍しいものを送ってくれていました。女の子の母親は彼女を生んですぐに亡くなってしまいましたが、女の子は父親と二人で慎ましく幸せに暮らしていました。でもある日――、旅先から帰って来た父親は、1人の女性と、彼女の二人の娘を連れて帰って来たのです」
「再婚か」
アルヴィンが重々しく相槌をするので、私は少し笑ってしまった。
「そう、そう、再婚ね。それで――、父親は彼女たちを『新しいお母さんとお姉さんだよ』と紹介します。女の子は家の中が賑やかになるわ、とても喜びました。だけど――、父親がまた旅に出ると、新しい義母と義姉たちは態度を豹変させたのです。家のことは女の子に全て任せ、自分たちは遊び放題。女の子はいつも白い埃をかぶっていたので、彼女たちは面白がって女の子を本当の名前ではなく『灰かぶり』と呼びました」
「――ひどいな。何で、父親はそんな女を好きになったんだ?」
アルヴィンは眉根を寄せて首を傾げた。
確かに、そこは気にしたことがなかったけれど。
「わからないわ。外面は良かったんじゃないかしら」
「父親は騙されたのか。――でも、父親にも責任があるよな」
私は苦笑した。ここまで話に聞き入ってくれると話甲斐があるけれど、一向に続きが進まない。私は時折口をはさむアルヴィンを制止しつつ、『灰かぶり』が王子様と出会って結婚するまでを話し終えた。
「――そして二人はその後いつまでも幸せに暮らしました。――お終い」
私は話続けて喉が渇いたので、コップに魔法で水を入れて一口飲むと、アルヴィンを見た。
「ちょっと子どもっぽいお話かしら――、え、アルヴィン?」
アルヴィンは若干瞳を潤ませている。
「良かったな――、幸せになって――。君はどうしてこの話が好きなんだ?」
「――挿絵が素敵なのよ。『灰かぶり』はキラキラした青いドレスを着ていて。――ねえ、このお話の魔女はカボチャを馬車に変えたり、素敵なドレスに着替えさせたりしてくれるけど、そういう魔法もあるの?」
「あるよ。キラキラした青いドレスか――、例えば、ほら」
アルヴィンは頷くと、指をくるっと回した。
途端私の着ている薄い青のドレスがぱあっと輝き出した。
「すごいわね」
私は思わず気持ちが舞い上がって手を胸の前で組んで飛び跳ねた。
「灯りを消してみるともっと良いか」
アルヴィンはそう呟くと指を回した。ふわっと風が起きて、さっきつけたランプが消える。家の中は薄暗い暗闇に包まれて、ふわっと光るドレスが浮き上がって見えた。
お話の挿絵みたい。
私は感動してくるりと回ってみた。
「どうかしら」
感想を求めてアルヴィンの顔を見つめると、彼はじっと押し黙ったまま私を見返した。
しばらくの沈黙が流れる。
「――似合ってる」
アルヴィンは呟くと、ズボンのポケットに手を入れた。
「――これ」
おもむろに出したのは、キラキラした石のついた髪留めだった。
「似合うかと思って、買ったんだけど――」
たどたどしい口調言いながら、アルヴィンはそれを私に差し出した。
――街で買ったのかしら――?
いつの間に?
「――綺麗ね」
ドレスの光を返してきらっと輝く髪飾りは、本当に綺麗に見えた。私は胸を押さえながら、アルヴィンを見上げた。
「――つけてくれる?」
アルヴィンは無言で頷くと、私に一歩近づいて、抱き寄せるように肩に手を回すと、後ろで編み込んだ私の茶色いくせ毛編み目にに髪飾りをゆっくりと挿し込んだ。
「――似合ってる」
低い、耳に心地よいアルヴィンの声が聞こえて、私は「ありがとう」と言おうとゆっくり首を持ち上げた。さっぱりした髪からはっきり見えるアルヴィンの青い瞳と目と目が合う。
「ありがとう」の言葉がなかなか出なかった。しばらくの沈黙ののち、どちらともなく私たちは顔を近づけ、唇を重ねた。
102
お気に入りに追加
2,707
あなたにおすすめの小説

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

忘れられた薔薇が咲くとき
ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。
だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。
これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。
妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。
その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。
家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。
ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。
耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

どうか、お幸せになって下さいね。伯爵令嬢はみんなが裏で動いているのに最後まで気づかない。
しげむろ ゆうき
恋愛
キリオス伯爵家の娘であるハンナは一年前に母を病死で亡くした。そんな悲しみにくれるなか、ある日、父のエドモンドが愛人ドナと隠し子フィナを勝手に連れて来てしまったのだ。
二人はすぐに屋敷を我が物顔で歩き出す。そんな二人にハンナは日々困らされていたが、味方である使用人達のおかげで上手くやっていけていた。
しかし、ある日ハンナは学園の帰りに事故に遭い……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる