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1.令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
15.
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アジュール王国を守る魔法の壁を作ったのは、アルヴィンと彼の師匠さん……。
彼が言った言葉を飲み込めずに、私はぱちぱちと瞬きをした。
「俺は手伝っただけで――ほとんど師匠がやったんだけどね。君が師匠の名前を知らなかったように――、ケイレブは俺たちが関わったことは公にせずに、『全て自分がやった』と言ったよ。師匠は――魔法壁を作るために――寿命を縮めたのに」
アルヴィンは瞳を伏せて、悔しそうに言った。私は何を言っていいのか分からず、口ごもった。――ケイレブ様がそんなことを?
15年前に亡くなったケイレブ様は、荒れた時代に王国を守り抜いた王様として知られている。今でも亡くなられた日には式典が行われている程だ。毎年、余所行きの服を着たお父様とお母様とアネッサが、飾りをつけた馬車で式典のために王都へ向かうのを窓から見送っていた記憶がある。
アルヴィンは紅茶を一口飲んで息をつくと、顔を上げた。クッキーを一枚手に取って食べて笑顔を作る。
「――湿っぽい話をして悪い。これ、美味しいよ。食べれば」
「――ええ」
私もクッキーを一枚取って、ぱきっと割ると、ひとかけら口に入れた。
素朴な甘味が口の中に広がる。
「とにかく――、外の奴らは、魔術師を利用するだけ利用する。魔術師になる前――妖精が見えてたころは気味悪がって家から追い出して、今度は助けてくれって言って来たから手を貸してやったらいなかったことにして。――それで、外と関わるのはやめようって、この家に戻ってきて、静かにこいつらと暮らしてたんだ、俺は」
アルヴィンは自分の横に座る白い犬と、膝の上の黒猫を左右の手で撫でた。
そのまま、私をじっと見つめる。
「――君は、俺と同じで、魔術師の才能があるんだ、メリル。だから――君が良ければ、魔法を教えるよ。好きなだけこの家にいればいい」
私が、魔術師に――。ごくりと、唾を飲みこんだ。
自分にそんな大そうなことができるなんて、今まで考えたこともなかった。
私は頷いて頭を下げた。
「――お願いします。魔法を、教えて」
「よし」
アルヴィンは嬉しそうに笑うと、立ち上がった。
「色々あって疲れただろうから、ゆっくり休むといいよ。――2階の、師匠の部屋を使うか?」
「――使わせてもらえるなら、嬉しいわ」
答えると、アルヴィンは頷く。
「じゃあ、俺は部屋を掃除してくる。君は好きなとこでゆっくりしてろよ」
それから周りを見回して妖精たちに声をかけた。
「メリルの部屋を綺麗にするから、手伝ってくれないか?」
“えー? アルヴィンがやればいいのに”
“でもメリルの部屋だって”
“メリル、綺麗になったら嬉しい?”
「嬉しいわ。アルヴィンを手伝ってあげてくれないかしら」
“わかったよ、メリルが言うなら”
“アルヴィン、手伝うよ”
“後でまたあの風でわーっていうのやってね”
妖精たちはアルヴィンの方へと飛んで行って一緒に2階に上がって行った。
静かになったリビングで、残ったクッキーを食べて、紅茶を飲む。
窓からは穏やかな日差しが差し込んできて、急激に疲れと眠気が襲ってきた。
視界がぼんやりと霞んで、私はそのままソファに横になった。
私が……魔術師になる?
まどろみながら目を閉じる。どこまでが夢かわからなかったけれど、これまでになく、心が軽かった。
彼が言った言葉を飲み込めずに、私はぱちぱちと瞬きをした。
「俺は手伝っただけで――ほとんど師匠がやったんだけどね。君が師匠の名前を知らなかったように――、ケイレブは俺たちが関わったことは公にせずに、『全て自分がやった』と言ったよ。師匠は――魔法壁を作るために――寿命を縮めたのに」
アルヴィンは瞳を伏せて、悔しそうに言った。私は何を言っていいのか分からず、口ごもった。――ケイレブ様がそんなことを?
15年前に亡くなったケイレブ様は、荒れた時代に王国を守り抜いた王様として知られている。今でも亡くなられた日には式典が行われている程だ。毎年、余所行きの服を着たお父様とお母様とアネッサが、飾りをつけた馬車で式典のために王都へ向かうのを窓から見送っていた記憶がある。
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「――湿っぽい話をして悪い。これ、美味しいよ。食べれば」
「――ええ」
私もクッキーを一枚取って、ぱきっと割ると、ひとかけら口に入れた。
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「とにかく――、外の奴らは、魔術師を利用するだけ利用する。魔術師になる前――妖精が見えてたころは気味悪がって家から追い出して、今度は助けてくれって言って来たから手を貸してやったらいなかったことにして。――それで、外と関わるのはやめようって、この家に戻ってきて、静かにこいつらと暮らしてたんだ、俺は」
アルヴィンは自分の横に座る白い犬と、膝の上の黒猫を左右の手で撫でた。
そのまま、私をじっと見つめる。
「――君は、俺と同じで、魔術師の才能があるんだ、メリル。だから――君が良ければ、魔法を教えるよ。好きなだけこの家にいればいい」
私が、魔術師に――。ごくりと、唾を飲みこんだ。
自分にそんな大そうなことができるなんて、今まで考えたこともなかった。
私は頷いて頭を下げた。
「――お願いします。魔法を、教えて」
「よし」
アルヴィンは嬉しそうに笑うと、立ち上がった。
「色々あって疲れただろうから、ゆっくり休むといいよ。――2階の、師匠の部屋を使うか?」
「――使わせてもらえるなら、嬉しいわ」
答えると、アルヴィンは頷く。
「じゃあ、俺は部屋を掃除してくる。君は好きなとこでゆっくりしてろよ」
それから周りを見回して妖精たちに声をかけた。
「メリルの部屋を綺麗にするから、手伝ってくれないか?」
“えー? アルヴィンがやればいいのに”
“でもメリルの部屋だって”
“メリル、綺麗になったら嬉しい?”
「嬉しいわ。アルヴィンを手伝ってあげてくれないかしら」
“わかったよ、メリルが言うなら”
“アルヴィン、手伝うよ”
“後でまたあの風でわーっていうのやってね”
妖精たちはアルヴィンの方へと飛んで行って一緒に2階に上がって行った。
静かになったリビングで、残ったクッキーを食べて、紅茶を飲む。
窓からは穏やかな日差しが差し込んできて、急激に疲れと眠気が襲ってきた。
視界がぼんやりと霞んで、私はそのままソファに横になった。
私が……魔術師になる?
まどろみながら目を閉じる。どこまでが夢かわからなかったけれど、これまでになく、心が軽かった。
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