11 / 40
1.令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
11.
しおりを挟む
「服――」
アルヴィンは少し考え込むように俯いて呟いてから、顔を上げた。
「師匠の服が――そのまま残ってるが、それでいいか?」
彼の師匠――さっき言っていた、魔女のイブリンという人の服かぁ――。
亡くなった、と言っていたことと、『魔女』という言葉から私はお婆さんを想像した。
サイズとか――合うかな。
少し不安だったけれど、頷く。アルヴィンは「とりあえず見てくれ」と黒猫を床に下ろして、廊下に向かって階段を昇った。私はその後をついて行く。
2階に上がると、部屋が二部屋あって、アルヴィンは片方の扉を開けようとノブを回した。
――ガチャガチャ――
ノブを回す音が響く。――なかなか、開かないみたいだ。
「悪い。長いこと、入ってない部屋だから――」
アルヴィンはドアノブをひねったまま、ドアに体当たりした。バン!と音がして、扉が勢い良く開く。中から、埃っぽい匂いが飛び込んできた。
アルヴィンはけほっと咳き込んで室内に入った。私も後を追う。
――部屋の中には木製のベッドとクローゼットと鏡台があるだけの質素な部屋だった。
アルヴィンは窓を開けて、また胸の前で指をくるっと回した。
室内に風が渦巻いて、窓の外に埃をびゅんっと押し流した。
「――便利ね」
私は思わず関心して呟く。
「そうだろ。君もやろうと思うえば、すぐできるよ」
彼は振り返ると、得意げに笑って古びた木のクローゼットを開けた。
ギィィィィィィ
古びた音が部屋に響く。
「こういうので、いいのか?」
彼は私に中を見るように促した。
覗き込むと、同じ形の黒いドレスがたくさん入っている。
――魔女だから――ドレスが全部黒なのかしら。
そう思いながら取り出すして体に当ててみる。
シンプルな動きやすそうなドレスだった。サイズは少し大きめ。
――お婆さんのだったら小さいのかなと思ったけど――
「着れそうだわ」
私はアルヴィンに答えた。
「そうか、良かった」
アルヴィンは少し考えて、私を見た。
「――風呂も使ってないけど、あるんだ。準備しようか?」
「――え――」
私は固まった。
お風呂……を準備してもらう?
――さっき、会ったばかりの男の人に?
……いろいろと、大丈夫?
“お風呂!”
“すっきりするよ!”
“キレイになるよ!”
妖精たちが周りを飛び回る。
でも――お湯で、いろんなことを洗い流したい気分だ。
それに――、私は、バスタブに浸かったことがなかった。
屋敷では――、メイドが持ってきてくれるお湯で身体を拭いて、髪を洗ってもらうことはあったけど――。バスタブにお湯をはってもらって浸かるっていうのはしたことがなかった。お母様やアネッサがそうしてもらっているのは知っていたけれど――、私は、自分から使いたいって言えなかった。
「……」
しばらく、微妙な沈黙が流れた。
私は、おそるおそる聞いた。
「お風呂場も――見せてもらえる?」
「――わかった」
アルヴィンは部屋を出ると、今度は階段を下って、リビングの奥の扉を開けた。またドアノブをがちゃがちゃ回してから、扉に体当たりする。――ここも、長い間使っていない部屋みたいだ。
入ると床がタイル張りになっていて、部屋の真ん中に白い陶器のバスタブが置いてあった。やっぱり室内は埃っぽくて、古い匂いがした。
アルヴィンは窓を開けると、また埃を風で追い出した。
私はじっと陶器のバスタブを見つめた。お湯入れて浸かったら気持ち良さそう……。
そんな私を見て、アルヴィンは言いにくそうに申し出た。
「――お湯、入れようか?」
「いえ――、でも――」
私は何度かそう繰り返してから聞いた。
「お湯も、魔法で?」
アルヴィンは頷く。
「すぐできる」
「……」
私はしばらく黙ってから「お願いしてもいいかしら」と彼に聞いた。
アルヴィンは少し考え込むように俯いて呟いてから、顔を上げた。
「師匠の服が――そのまま残ってるが、それでいいか?」
彼の師匠――さっき言っていた、魔女のイブリンという人の服かぁ――。
亡くなった、と言っていたことと、『魔女』という言葉から私はお婆さんを想像した。
サイズとか――合うかな。
少し不安だったけれど、頷く。アルヴィンは「とりあえず見てくれ」と黒猫を床に下ろして、廊下に向かって階段を昇った。私はその後をついて行く。
2階に上がると、部屋が二部屋あって、アルヴィンは片方の扉を開けようとノブを回した。
――ガチャガチャ――
ノブを回す音が響く。――なかなか、開かないみたいだ。
「悪い。長いこと、入ってない部屋だから――」
アルヴィンはドアノブをひねったまま、ドアに体当たりした。バン!と音がして、扉が勢い良く開く。中から、埃っぽい匂いが飛び込んできた。
アルヴィンはけほっと咳き込んで室内に入った。私も後を追う。
――部屋の中には木製のベッドとクローゼットと鏡台があるだけの質素な部屋だった。
アルヴィンは窓を開けて、また胸の前で指をくるっと回した。
室内に風が渦巻いて、窓の外に埃をびゅんっと押し流した。
「――便利ね」
私は思わず関心して呟く。
「そうだろ。君もやろうと思うえば、すぐできるよ」
彼は振り返ると、得意げに笑って古びた木のクローゼットを開けた。
ギィィィィィィ
古びた音が部屋に響く。
「こういうので、いいのか?」
彼は私に中を見るように促した。
覗き込むと、同じ形の黒いドレスがたくさん入っている。
――魔女だから――ドレスが全部黒なのかしら。
そう思いながら取り出すして体に当ててみる。
シンプルな動きやすそうなドレスだった。サイズは少し大きめ。
――お婆さんのだったら小さいのかなと思ったけど――
「着れそうだわ」
私はアルヴィンに答えた。
「そうか、良かった」
アルヴィンは少し考えて、私を見た。
「――風呂も使ってないけど、あるんだ。準備しようか?」
「――え――」
私は固まった。
お風呂……を準備してもらう?
――さっき、会ったばかりの男の人に?
……いろいろと、大丈夫?
“お風呂!”
“すっきりするよ!”
“キレイになるよ!”
妖精たちが周りを飛び回る。
でも――お湯で、いろんなことを洗い流したい気分だ。
それに――、私は、バスタブに浸かったことがなかった。
屋敷では――、メイドが持ってきてくれるお湯で身体を拭いて、髪を洗ってもらうことはあったけど――。バスタブにお湯をはってもらって浸かるっていうのはしたことがなかった。お母様やアネッサがそうしてもらっているのは知っていたけれど――、私は、自分から使いたいって言えなかった。
「……」
しばらく、微妙な沈黙が流れた。
私は、おそるおそる聞いた。
「お風呂場も――見せてもらえる?」
「――わかった」
アルヴィンは部屋を出ると、今度は階段を下って、リビングの奥の扉を開けた。またドアノブをがちゃがちゃ回してから、扉に体当たりする。――ここも、長い間使っていない部屋みたいだ。
入ると床がタイル張りになっていて、部屋の真ん中に白い陶器のバスタブが置いてあった。やっぱり室内は埃っぽくて、古い匂いがした。
アルヴィンは窓を開けると、また埃を風で追い出した。
私はじっと陶器のバスタブを見つめた。お湯入れて浸かったら気持ち良さそう……。
そんな私を見て、アルヴィンは言いにくそうに申し出た。
「――お湯、入れようか?」
「いえ――、でも――」
私は何度かそう繰り返してから聞いた。
「お湯も、魔法で?」
アルヴィンは頷く。
「すぐできる」
「……」
私はしばらく黙ってから「お願いしてもいいかしら」と彼に聞いた。
49
お気に入りに追加
2,580
あなたにおすすめの小説
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
どうか、お幸せになって下さいね。伯爵令嬢はみんなが裏で動いているのに最後まで気づかない。
しげむろ ゆうき
恋愛
キリオス伯爵家の娘であるハンナは一年前に母を病死で亡くした。そんな悲しみにくれるなか、ある日、父のエドモンドが愛人ドナと隠し子フィナを勝手に連れて来てしまったのだ。
二人はすぐに屋敷を我が物顔で歩き出す。そんな二人にハンナは日々困らされていたが、味方である使用人達のおかげで上手くやっていけていた。
しかし、ある日ハンナは学園の帰りに事故に遭い……。
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います
黒木 楓
恋愛
伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。
異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。
そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。
「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」
そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。
「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」
飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。
これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる