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1.令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

11.

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「服――」

 アルヴィンは少し考え込むように俯いて呟いてから、顔を上げた。

「師匠の服が――そのまま残ってるが、それでいいか?」

 彼の師匠――さっき言っていた、魔女のイブリンという人の服かぁ――。
 亡くなった、と言っていたことと、『魔女』という言葉から私はお婆さんを想像した。
 サイズとか――合うかな。

 少し不安だったけれど、頷く。アルヴィンは「とりあえず見てくれ」と黒猫を床に下ろして、廊下に向かって階段を昇った。私はその後をついて行く。
 2階に上がると、部屋が二部屋あって、アルヴィンは片方の扉を開けようとノブを回した。

 ――ガチャガチャ――

 ノブを回す音が響く。――なかなか、開かないみたいだ。

「悪い。長いこと、入ってない部屋だから――」

 アルヴィンはドアノブをひねったまま、ドアに体当たりした。バン!と音がして、扉が勢い良く開く。中から、埃っぽい匂いが飛び込んできた。

 アルヴィンはけほっと咳き込んで室内に入った。私も後を追う。
 
 ――部屋の中には木製のベッドとクローゼットと鏡台があるだけの質素な部屋だった。
アルヴィンは窓を開けて、また胸の前で指をくるっと回した。

 室内に風が渦巻いて、窓の外に埃をびゅんっと押し流した。

「――便利ね」

 私は思わず関心して呟く。

「そうだろ。君もやろうと思うえば、すぐできるよ」

 彼は振り返ると、得意げに笑って古びた木のクローゼットを開けた。
 
 ギィィィィィィ

 古びた音が部屋に響く。

「こういうので、いいのか?」

 彼は私に中を見るように促した。
 覗き込むと、同じ形の黒いドレスがたくさん入っている。
 ――魔女だから――ドレスが全部黒なのかしら。
 そう思いながら取り出すして体に当ててみる。

 シンプルな動きやすそうなドレスだった。サイズは少し大きめ。
 ――お婆さんのだったら小さいのかなと思ったけど――

「着れそうだわ」

 私はアルヴィンに答えた。

「そうか、良かった」

 アルヴィンは少し考えて、私を見た。

「――風呂も使ってないけど、あるんだ。準備しようか?」

「――え――」

 私は固まった。
 お風呂……を準備してもらう?
 ――さっき、会ったばかりの男の人に?
 ……いろいろと、大丈夫?

“お風呂!”
“すっきりするよ!”
“キレイになるよ!”

 妖精たちが周りを飛び回る。

 でも――お湯で、いろんなことを洗い流したい気分だ。
 
それに――、私は、バスタブに浸かったことがなかった。
 屋敷では――、メイドが持ってきてくれるお湯で身体を拭いて、髪を洗ってもらうことはあったけど――。バスタブにお湯をはってもらって浸かるっていうのはしたことがなかった。お母様やアネッサがそうしてもらっているのは知っていたけれど――、私は、自分から使いたいって言えなかった。

「……」

 しばらく、微妙な沈黙が流れた。
 私は、おそるおそる聞いた。

「お風呂場も――見せてもらえる?」

「――わかった」

 アルヴィンは部屋を出ると、今度は階段を下って、リビングの奥の扉を開けた。またドアノブをがちゃがちゃ回してから、扉に体当たりする。――ここも、長い間使っていない部屋みたいだ。

 入ると床がタイル張りになっていて、部屋の真ん中に白い陶器のバスタブが置いてあった。やっぱり室内は埃っぽくて、古い匂いがした。

 アルヴィンは窓を開けると、また埃を風で追い出した。
 私はじっと陶器のバスタブを見つめた。お湯入れて浸かったら気持ち良さそう……。
 そんな私を見て、アルヴィンは言いにくそうに申し出た。

「――お湯、入れようか?」

「いえ――、でも――」

 私は何度かそう繰り返してから聞いた。

「お湯も、魔法で?」

 アルヴィンは頷く。

「すぐできる」

「……」

 私はしばらく黙ってから「お願いしてもいいかしら」と彼に聞いた。
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