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船からの脱出
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アオはふぅっと、自分の気持ちを落ち着けるように息を吐くと、ゆっくりと日差しのような声を持つ、輝く一つの赤い瞳の男へと近づいていった。
青のぼやけた視界に、二人の姿がぼんやりと浮かんでくる。
ウロコが生えそろったように見えたのは、二人が魚の皮とウロコを加工して作った服を着ているからであることが分かった。
魚の模様が服の模様としてのデザインとなるように縫い合
わせられていて、その上に、ウロコを重ねて板状に加工して作った鎧をまとっている。
カイトと名乗った赤い瞳を持つ男のもう一つの瞳は、青い海色をしていた。
暗がりでうすぼんやりと光っているような銀色の髪。
長身で恰幅もよく、戦装束を着ていても、その筋肉の盛り上がりが分かるほどだった。
もう一人の男は声から連想する通りの鋭い相貌をしていた。
切れ長の瞳にワシ鼻。額あてと鋭く赤い瞳を持つ男のように筋肉の盛り上がりは分からなかったが、場数を踏んできたのであろうことが、近寄りがたい雰囲気として滲み出ている。
二人の男は、アオが目の前にやってくると、二人そろって、瞳を大きく見開いた。
「アオ。お前の母親は?」
カイトと名乗った男が、声を震わせながら尋ねてくる。
「母は何年も前に亡くなっています」
「名前は?」
「ミコト……」
「……そうか……」
カイトは瞼を閉じ、眉間に皺を寄せながら、顔を俯かせ、ゆっくりと振り仰いだ。
涙が零れ落ちるようになるのをこらえるような仕草に、彼がアオの母親の死を知って悲しんでいることが分かったが、アオは、何故、彼が自分の母の死を悲しんでいるのか、その理由が分からず、不思議に思っていた。
そうしていると、カイトはゆっくりとアオと視線を合わせた。
穏やかな青い瞳に、一瞬、強い懐かしさを感じて、胸と瞳の奥がざわついた。息苦しさに、アオは手で胸を押さえつける。
「ミコト叔母様をお助けすることは出来なかったが、お前が生きていてくれて、良かった」
「叔母? 母が? 貴方の? どういうことなのですか?」
「ミコト叔母様は、俺の父の妹で、俺にとって叔母、つまり俺たちは、いとこ関係だ」
「いとこ……? 僕と、あなたが?」
「ああ」
「………」
聞き返した自分の言葉に頷く男をアオは見やる。
その視線は、男の容姿ではなく、彼の後ろにある思惑を、そして自分の記憶に向けられていた。
まだこの船がレブルでは無かった頃、この船では血のつながりの話はタブーとされていたので、母から血のつながった人間の話を聞いたことはない。
しかし、だからといって、この男が自分の身内だと嘘をつくことに理由も思いつかなかった。
今はまだ、自分がレブルだということを、この男は知らないのだから。
青のぼやけた視界に、二人の姿がぼんやりと浮かんでくる。
ウロコが生えそろったように見えたのは、二人が魚の皮とウロコを加工して作った服を着ているからであることが分かった。
魚の模様が服の模様としてのデザインとなるように縫い合
わせられていて、その上に、ウロコを重ねて板状に加工して作った鎧をまとっている。
カイトと名乗った赤い瞳を持つ男のもう一つの瞳は、青い海色をしていた。
暗がりでうすぼんやりと光っているような銀色の髪。
長身で恰幅もよく、戦装束を着ていても、その筋肉の盛り上がりが分かるほどだった。
もう一人の男は声から連想する通りの鋭い相貌をしていた。
切れ長の瞳にワシ鼻。額あてと鋭く赤い瞳を持つ男のように筋肉の盛り上がりは分からなかったが、場数を踏んできたのであろうことが、近寄りがたい雰囲気として滲み出ている。
二人の男は、アオが目の前にやってくると、二人そろって、瞳を大きく見開いた。
「アオ。お前の母親は?」
カイトと名乗った男が、声を震わせながら尋ねてくる。
「母は何年も前に亡くなっています」
「名前は?」
「ミコト……」
「……そうか……」
カイトは瞼を閉じ、眉間に皺を寄せながら、顔を俯かせ、ゆっくりと振り仰いだ。
涙が零れ落ちるようになるのをこらえるような仕草に、彼がアオの母親の死を知って悲しんでいることが分かったが、アオは、何故、彼が自分の母の死を悲しんでいるのか、その理由が分からず、不思議に思っていた。
そうしていると、カイトはゆっくりとアオと視線を合わせた。
穏やかな青い瞳に、一瞬、強い懐かしさを感じて、胸と瞳の奥がざわついた。息苦しさに、アオは手で胸を押さえつける。
「ミコト叔母様をお助けすることは出来なかったが、お前が生きていてくれて、良かった」
「叔母? 母が? 貴方の? どういうことなのですか?」
「ミコト叔母様は、俺の父の妹で、俺にとって叔母、つまり俺たちは、いとこ関係だ」
「いとこ……? 僕と、あなたが?」
「ああ」
「………」
聞き返した自分の言葉に頷く男をアオは見やる。
その視線は、男の容姿ではなく、彼の後ろにある思惑を、そして自分の記憶に向けられていた。
まだこの船がレブルでは無かった頃、この船では血のつながりの話はタブーとされていたので、母から血のつながった人間の話を聞いたことはない。
しかし、だからといって、この男が自分の身内だと嘘をつくことに理由も思いつかなかった。
今はまだ、自分がレブルだということを、この男は知らないのだから。
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