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船からの脱出
04
しおりを挟むまたか、またなのか!
歯を噛みしめながら、青年は両手を肘を曲げてあげ、声が発せられたと方へ振り返った。
「っひ!?」
青年の喉から恐怖に引きつった声が漏れる。
振り返った先には、一つの赤く輝く目玉をたたえた、全体的に銀色に輝いている化け物の姿があった。
通路の縦横を占める体と細かく光を反射する魚のもののような肌。
その手には剣が握らている。
とうとう、人間ではなく、化け物が僕を殺しにきたのか?
命のやりとりをした直後の化け物の登場に、流石に青年の心が折れそうになる。
そんな彼を支えたのは、焦った様子の人の声だった。
「すまない。怯えないでくれないか?」
「は?」
その声は、最初に青年を呼び止めた声とは違う声だった。
よく響く、声、空気を震えのはずなのに、何故か、日差しのようなぬくもりを感じる、安心感を覚える声だった。
青年はそれで恐怖を忘れて、化け物と思っていたものに問い返した。
「に、人間ですか?」
「じゃなかったら、なんだと言うんだ?」
苦笑する声に向かって、青年はじっと目を凝らす。
ぼやけた視界に、一体だと思っていた化け物が、実は二人の人間であったことが分かり、青年は思わず脱力した。
そして、急に冷静になったことで、恥ずかしさに顔が赤くなり、それを隠すように手で押さえつける。
「あ、おい、大丈夫か?」
「おい、カイト、まだ近づくな!」
黙り込んだ青年を見ていた男が、青年を気遣い近づこうとして、背後に控えている細見の男に止められた。
声から最初に青年を呼び掛けた男だと分かる。
「そこの者、この船のオメガだな? 我々はヤマトの船の者だ。お前たちを保護するためにここへ来た。そこにいるお前たちを害そうとする者たちとは別の船の者だ。こちらへ来い」
「………」
男の言葉に、青年は考えていた。
確かに、目の前にいる二人の男たちは、今殺した男とは別のように思う。
しかし、だからと言って、彼らの言葉を真に受けて信じていいとは思えなかった。
彼の言葉が嘘だったとしたら、自分を害するつもりだったらどうする?
相手は二人、しかも、相当の手練れのように見える。
あの薬を使えば、なんとかなるかもしれないが、二人を倒して、また、自分を殺そうとしてきた連中からどうやって身を守る?
「なぁ……、考えているところすまない」
考える青年に、また日差しのような声がかかる。
青年は、思わず、よく見えない男の顔を見つめた。
「俺はカイト。ヤマトの船長だ。お前の名は?」
「……僕の名前は……アオ」
青年は、少しの間をおいて、自分の名前として、アオと名乗った。
「そうか、アオ、どうか信じて欲しい。俺たちは、お前を……助けるために、ここに来たんだ」
「……」
日差しのような声の男の言葉に、青年は考える前に頷いていた。
それに驚きながらも、青年は自分を納得させるように心の中で呟いた。
今はこの二人に従おう、この先、薬があったとしても、今回のように切り抜けることができるかどうかは分からない。 この二人から逃げることは、僕を殺そうとする連中から逃げた後で考えれば良いんだ。
「分かりました。今、そちらへ向かいます。攻撃する意思はありません」
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