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受け継ぐもの
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しおりを挟む子供達が生まれてすぐ、千歳から新しい薬の情報を買いその医者の元へと旅立っていた。断じて、決戦の時に倒れたきりあの世へ、というわけではない。
足元にいる狐モドキから黒鷹が近づいてきていると知って、ちょっとからかっただけ。やすやすと紅鷹を抱き上げてしまったのを羨ましそうに見ている千歳。
戻ってくるまでにはまだ数日かかるところを、和鷹の命日だからと予定を早めた。小紅達を驚かせようと内緒にしていたのにと、千歳を睨む黒鷹。
遠く離れた場所にいる医者に診察してもらい、やはり末期だと言われた。しかし東洋医学にも西洋医学に精通したその医者は新薬を開発。効果があるかどうかはわからないと、薬を差し出した。
その薬がこれだと、黒鷹は懐から取り出して見せ、好奇心旺盛な紅鷹の手が触れる寸前に懐に戻す。
「む、心なしか以前よりも顔色が良くなっておる気がするが。どうやらその新薬とやらはお前の体に合っているようだな?」
「延命にしかならないさ。けど、覚悟していたよりももっともっと長く生きられるって思うと嬉しくなっちゃってさ。こうして子供も生まれたわけだし、愛する家族と過ごす時間を大事にしたいって思ったよ」
「父親らしいことをぬかしおって。ならば今日この時から、お前がおらぬ間1人で育児に励んできた妻のために手伝ってやれ。それと、仕事にも励めよ?」
黒鷹の病気が治ったわけではない。まだ、完璧に治せる治療法は見つかっていないのだ。
それでも黒鷹は今、生きている。柔らかな笑みを浮かべて小紅に寄り添い、鷹虎の小さな頭を撫でる。
今ある幸せのために生きて、命の炎が燃え尽きるその時まで必死に抗い、最期のその瞬間には笑おうと決めた。
双子の父親として、小紅の夫として幸せな家庭を築く。そして鷹の翼の頭領として、これからも体が動く限り仕事は続ける。
先代頭領の夜鷹が近藤と交わした約束を引き継ぎ、新選組の手が届かない部分への粛清を。鷹の翼らしい義賊行為で。
小紅が苦渋の決断をした鷹の翼の活動休止を、黒鷹は続行に変える。もしも自分の身に何かが起こって頭領としての役目を果たせなくなったら。
次の頭領を誰に引き継いでもらうのか、黒鷹は考えていない。今は考える必要はないと思ったから。
本当は、病気のせいで先がない自分のあとを継ぐのは和鷹だと決めていたのだが。黒鷹は和鷹の墓石に触れ、コツンと拳を当てた。
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