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鴇のひとこえ
3P
しおりを挟む「誰ひとり命を落とした者はいない。多少深手を負って倒れている人はいるけど、全員、今は広間で手当てを受けているよ」
白鴇は医者と腕利きの家臣、それから妻である沙雪を連れて駆け付けたのだという。
死者が出なかったのは白鴇が来たのが早かったためか、はたまたそれぞれ覚悟を決めてはいても思うところがありとどめをなかなか刺せなかったのか。
何にせよ、小紅はホッと胸を撫でおろした。これでやっと、全てが終わると。
「…………のう黒鷹。真に良い弟を持ったな」
「僕は兄さんだけのためにやったんじゃない。本当に、襲撃なんてなかったから真実を伝えただけだよ。あれはただの、長い長い兄弟喧嘩だったんだから」
そう言って白鴇はうなだれる近藤の前に立つと手を伸ばし、鼻をつまんだ。思いっきりつねって、悪戯っぽく笑う。
「は……はっはっはっはっ……してやられた、な。あぁ、終わりだ終わりだ。トシ、わしらは屯所に戻るぞ。己の足で歩けぬ者はおるまい」
「無茶を言うぜ、まったく。近藤さんこそ、もうフラフラじゃねぇか」
かくいう土方も足を刺し貫かれてフラフラだ。緊張がほぐれて高所恐怖症が復活したのだろう。下を見ないように近藤の腕を担ぎ、支えられながら小紅に目を向ける。
小紅は自力で脱臼した左肩を元に戻し、白鴇に支えてもらっている黒鷹の手に触れる。
温か、くない。さっきからずっとうつむき黙ったままで様子がおかしい。下から顔を覗き込むと彼は、激しく咳き込んだ。
「ゴホッゴホッ!う、ゴホッゴホッゴホッゴホッカハッ!っ、はぁっ、はぁっ、はぁ……ゴホッゴホッゴホッ!」
口から、胸の大きな傷口から大量の血が吹き出し、真っ赤に染まった白鴇の腕の中に崩れ落ちた。顔が真っ青だ。
「く、黒鷹様っ!!しっかりしてください!黒鷹様っ!!ねぇっ!」
それは黒鷹にとって命がけの戦い。命を削って刀を振るい、今まで耐えてきた。もうすぐ目の前にまで見えている己の“死”に、震える。
まだギリギリ意識がある、といったところ。しかしもうすぐだ。わかっていたのに。
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