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鴇のひとこえ
2P
しおりを挟む「ならばわしは黒鷹の首を切ってから切腹……いや、首を切られよう。この宿命を中途半端に止めるなど」
「ゴホッゴホッ!そうだね。近藤がそこまで言うなら僕もこの首を差し出すよ。紅ちゃんや皆には悪いけど、僕達の宿命は何者にも、将軍様にも止められないんだ」
2人とも、何かを悟った目をしている。明るい未来のため、生きることを選んだんじゃなかったのか?明るい未来とは、自分がいない未来のことだったのか?
近藤の前にこうべを垂れて静かに“終わり”を待つ黒鷹に、小紅の体は動かない。あまりにも衝撃的過ぎて、声を発することすらもできない。
穏やかな表情で、もう思い残すことはないと自分の心に嘘を吐く夫を、妻は叱ることができない。
刀を振り上げてわずかな笑みさえも浮かべる近藤に、土方は恐怖した。誰も寄せ付けない圧倒的な威圧を感じ、必要のない“殺し”をやめさせることができない。
戦いの果てにある近藤と黒鷹の死が宿命だというのか?局中法度に背いた者を裁くのは土方の役目。そして、背こうとする者を見つけ正すのも彼の役目。しかし、声が出ない。
そんな2人の想いも虚しく近藤の刀は振り下ろされ、目を閉じた黒鷹の首に襲いかかる。が、血しぶきは舞い上がらず代わりに、ガキィンッ!と鋭い音が響いた。
「愚か者。命を粗末にするな。……って、魅堂夜鷹なら叱っていたよ。でももう夜鷹さんはいないんだ。だけど代わりに叱ってくれる人はいる、そうでしょ?」
近藤の刀は、黒鷹の首に触れる直前に白鴇の刀に弾かれた。小紅よりも、黒鷹よりも、鳶よりも速い動き。守るための強さ。上に立つ者の決断力。
黒鷹の、近藤の心臓がドッドッドッドッと早鐘を打つ。己が犯しかけた過ちに、血の気が引いた。
チンッと白鴇が刀を鞘に戻す。そこでようやく小紅と土方は動いた。それぞれ黒鷹と近藤の前に立ち、手を振り上げる。
「「生きてください」」
バチィンッ!と、2つ分の頬を打つ音が響いた。動けなくなってしまった黒鷹を小紅は優しく抱きしめ、土方はそっと近藤の手を取って刀を鞘に納めさせる。
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