鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
377 / 386
鴇のひとこえ

1P

しおりを挟む

「そこまでだッ!!近藤、土方、刀を引け!」

 突然の叫び声に近藤も土方もピタリと刀を止め、顔を上げる。死を覚悟した黒鷹と小紅も、声がした方に目を向けた。え、誰もいない?

 地上からはしごをかけて登っている途中で叫んだのか、声の主が今やっと上まで上がって走ってきた。

 額に大粒の汗をいくつも浮かべて「刀を納めよ!」とさらにきつく叫ぶ、彼の腰には1振りの刀。白い鞘に白い柄の刀だ。

 そう、黒鷹の双子の弟の三上白鴇。小さくとも城の主である彼はここにいる誰よりも地位が高く、近藤と土方は渋々刀を納め黒鷹と小紅の上から退く。

 自由になった黒鷹と小紅も、彼が発するただならぬ雰囲気に大人しく刀を鞘に納め1歩下がる。

「ここに、お上からの直筆の書状がある。はぁっ、はぁ、はぁ……そうだ。そ、そのまま聞け」

 相当飛ばしてきたのだろう。手に握っている書状を掲げる白鴇は「ゼェハァゼェハァ」と荒い呼吸を繰り返し、4人が両手をつき首を垂れるのを確認する。

 たとえ紙切れであろうと、この国の頂点に君臨する将軍の直筆の書状となればどんな場合であろうと中断しひれ伏さなければならない。

 4人の体から血が流れ続けているのを考慮し、白鴇は急いで書状の内容を読み上げた。

 失敗。慌てすぎて、表と裏、さらに上下も反対。「あっあっ」と書状を踊らせて正しく持つとチラッと4人を見た。赤くなった顔を隠すように書状を上げ咳払いをすると、改めて読み上げる。

 鷹の翼、魅堂黒鷹による三上城、及び三上白鴇への襲撃の事実はなかった。よって、新選組に言い渡された鷹の翼の捕縛と屋敷の取り壊しは中止。

 という内容だった。ちゃんと、直筆である証拠に最後に徳川慶喜の名前まで書かれてある。

 4人は目を見開き開いた口が塞がらない。しかしこれが現実だ。これでもう、近藤率いる新選組が黒鷹率いる鷹の翼と戦う理由はなくなった。

 新選組は、このまま戦闘を続ければ局中法度に背いたとされ切腹させられてしまう。まさに危機一髪。

 それまで城の主らしく、お上からの勅命を受けた使者らしくきつい命令口調だったが。白鴇は呼吸を整えるとフッと肩の力を抜いた。

「僕がお上のところに出向いて、直談判してきたんだ。なかなか頑固だったけど、なんとか応じてくれたから。だから、近藤はこのまま新選組幹部達を連れて帰って。兄さんも――」

 同時に顔を上げた、近藤と黒鷹の目が合った。2人は立ち上がり、近藤がスラリと抜いた刀を構える。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...