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夫婦と親子と主従の因縁
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しおりを挟む激しく、何度も何度も刀がぶつかり合う音。肉が切れる音。彼らの叫び声。焦りと不安にバクバクバクバク鳴り響く心臓の音。
さぁ早く、もっと手を伸ばして。できるはずだ。真に黒鷹を愛しているなら、近藤と土方を思っているなら。今の小紅には必ずできる。
「う、うぅっ……!」
どこからか力が湧いてくる。「頑張れ」と、愛する夫の声が聞こえる。絶対に諦めない。黒鷹が待ってくれているんだ、諦めるわけにはいかない。
小紅は歯を食いしばり、脱臼したままかろうじて雨どいをつかんでいる左手が外れぬよう注意しながら右手を伸ばす。もっと伸ばす。もっともっと。
爪の先が触れた。あと少し、よし、指を引っかけた。あとは腹筋に力を入れて全力で体を引っ張って、体が上がり顔が屋根の上に出た。
そこに見えたのは、黒鷹が近藤に屋根の上に押さえ込まれ土方に足を刺し貫かれている光景。しかも口元は真っ赤に汚れすぐ下には血溜まり。
震えた。一瞬で全身の血液が沸騰するような純粋な怒りが小紅の心を支配し、一気に屋根の上に上がると弾丸のように飛び出した。
声の限り愛する夫の名を叫び、瞬間的に近藤の目の前に姿を現すと短刀を振り上げる。だが近藤は不意打ちながらも彼女が発する殺気に反応し首をかすめるにとどまる。
さらに跳んで今度は土方に襲いかかった小紅は、しかしすぐに立ち直った近藤に背中を斬られ崩れ落ちる。
「ぐあっ!?なん、だと……っく!」
土方が取り押さえようと小紅の背中にかけた足に激痛が走った。太ももに深々と、和鷹の刀が横向きに刺さっている。黒鷹が投げたようだ。
近藤に組み敷かれながらも、愛する妻を守るために武器を1つ捨てた。だが、それでも土方は小紅の上から退かない。
「お前達は強くなった、それは認めよう。だがもう終わりだ。苦しむことなく一瞬であの世へ送ってやる」
近藤は黒鷹の、土方は小紅の首を前に刀を振り上げた。
黒鷹と小紅は捕まってしまった。この場で打ち首にされてしまう。もう終わりだ、今度こそ終わりだ。
別れの挨拶もできずこの世に未練を残したままその生涯に幕を閉じてしまう。死を覚悟した。
悔しい。悔しくて悔しくて、2人の頬を温かい涙がツウと伝い落ちたその時。どこからか「生きろ」と声が聞こえたような気がした。
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