鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
374 / 386
夫婦と親子と主従の因縁

8P

しおりを挟む

 と、別の方から近藤の、開いている財布の中に何かが投げ込まれた。金子だ。わずかな財布の口に吸い込まれるようにして金子が入った。

 投げたのは、苦笑いを浮かべる小紅。小紅は戦闘中、一旦財布を奪い金子を抜いて再び近藤の懐に戻していたのだ。

 黒鷹や、盗人の夜鷹よりも盗みが上手いのかもしれない。他の3人がそう思うほど、小紅の盗みは誰も気づかなかった。ちょっと引いた。

「テメェまでそんなことをするたぁ、すっかり毒されちまったな」

「い、1度やってみたかったんです。ドキドキしましたがまさか近藤さんを相手にできるとは思わなくて、自分でもかなり驚いています」

 だめだ、小紅の赤黒い瞳が爛々と輝いている。あぁ、上手くできて良かったですね。黒鷹が手を叩いて喜んでいるぞ。

 近藤は苦笑を浮かべ、中身が正しくなったのを確認すると財布を懐へ。土方も守り袋を懐に戻そうとして、止めた。

 黒い瞳でジッと見つめ、何を思ったのかポイッと放り投げる。そして素早く刀を一閃させると、薄水色の守り袋は真っ二つに。

 小紅が「あっ」と声を上げた、その一瞬で断ち斬られた守り袋は地面に落ちる。

 紅花、ハナはもう死んでこの世にはいないのだから。つながりを断つため、未練を残さないためにそんなことをしたのか。

 守り袋など神様からの授かりものは1年が過ぎると、元の神社に返すのが習わしだ。それを、なにも斬らなくてもいいだろうが。バチ当たりめ。

 小紅は胸がチクリと痛んだ。何とも言えない罪悪感に土方から目を反らす。が、首を横に振ってまっすぐ目を向ける。自分はもうハナではない。

「きっとバチが当たりますよ」

「バチが怖くて鬼の副長が務まるかよ。さぁ、もう話すことはねぇ。ここからは全力をぶつける刀で語り合うんだ。そうだろう、近藤さん?」

「そうだな。わしもスッキリした。さて黒鷹よ、お前がすでに重傷を負っていようが不治の病を背負っていようがわしは殺すつもりでゆく。覚悟せい」

「臨むところだよ。この足場にもだいぶ慣れてきたし、僕も今度こそ近藤さんの首を取れるように本気で行くから。ゴホッゴホッゴホッ……!」

 本当に容赦なかった。背を曲げるほど酷く咳き込んだ黒鷹に、近藤と土方が同時に襲いかかったのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】『口口口 -ろろろ-』 ~江戸西国、妖怪ファンタジー~ 

白楠 月玻
歴史・時代
外の世界にあこがれる臆病な少年と、幕府の命令を受けて旅をする少女の出会いの物語。 舞台は江戸時代中期の小さな山村。 乱世が終わり、庶民文化が花開く裏側で世界を蝕むモノがいた。 あの世とこの世の境目がほつれ、交わり、侵入してきた「怪異」たち。 少年が出会った少女の使命は、人々をあの世へ誘う怪異を退治すること。 呪われた少年と呪われた少女の妖怪ファンタジー開幕!

浅葱色の桜

初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。 近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。 「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。 時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。 小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

ふと思ったこと

マー坊
エッセイ・ノンフィクション
たまにはのんびり考えるのも癒しになりますね。 頭を使うけど頭を休める運動です(笑) 「そうかもしれないね」という納得感。 「どうなんだろうね?」という疑問符。 日記の中からつまみ食いをしてみました(笑) 「世界平和とお金のない世界」 https://plaza.rakuten.co.jp/chienowa/  

処理中です...