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夫婦と親子と主従の因縁
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しおりを挟む「義賊とはいえ不法侵入及び窃盗、目に余る悪戯は新選組が罰せねばならん。わしと夜鷹の喧嘩がそれに加わった、というようなものだな」
「へぇ、本当にくだらない。でも、愛のある喧嘩だね。クスッ、夜鷹さんらしいや……ゴホッ!ゴホッゴホッ!」
小紅が千歳に教えてもらった情報は確かに合っていた。小紅の名前が関係し、愛されていると。
まさか娘の名前をつけるのに本物の父親が考えた名前と、養女として迎え入れた育ての親が考えた名前で喧嘩になるとは。
しかも、それが原因で2つの組織が長年争うようになってしまうとは。くだらない。いや、くだらなくない。
力が抜けた。緊張でピンと張りつめていた糸が一気に緩んだように力が抜けて、小紅は黒鷹につられて笑った。
「紅花が大人になり、夜鷹の元へ返す時が来ればその時に、紅花と小紅のどちらかを本人に決めてもらおうとしておったのだが……」
その前に、夜鷹は死んだ。そして2人の父親の意地の張り合いもむなしく、彼女は小紅を名乗るようになった。
とは言っても、彼女は時の流れに従い名を変えただけだが。新選組としている間は紅花として。間者であることがバレてからは紅花は死に、小紅が今ここにいる。
鷹の翼の頭領、魅堂黒鷹の妻として生きている。む、夜鷹の娘として魅堂小紅、黒鷹の妻になってからも魅堂小紅とは。
「小紅の名も紅花の名も、私は好きです。でも、ハナと呼ばれるのだけはいつまでたっても犬のようで嫌でした」
ここで土方に痛恨の一撃。小紅も紅花も彼女の綺麗な瞳や髪の色を思わせる名をつけたのだが、ハナはその紅花から紅を取っただけ。なぜそっちにしたんだ、土方。
もしかすると、彼女が花のように可愛いもしくは華のように綺麗。ということでつけたのかもしれないが。
土方の想いは最後まで彼女には届かない。残念だが、黒鷹に盛大に笑われている有様だ。
腹を抱え、目に涙を浮かべて笑う黒鷹は般若顔の土方に守り袋を投げた。近藤にも「気味が悪いくらい素直に話してくれたからね」と、財布を投げて返す。
刀を持ったまま中身を確認すると、近藤は黒鷹を睨みつけた。何も言わないがその顔には「足りない」と書いてある。
約束通り返して満足そうにしていた黒鷹は「あれ?」と首をかしげる。中身の金子だけを抜いた覚えはない。
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