鷹の翼

那月

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夫婦と親子と主従の因縁

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「わしは夜鷹と約束を交わした。娘が大人になるまでは本物のわしの娘として育てる。代わりに夜鷹はわしら新選組が手を下すことの出来ぬ部分への懲罰を担った。それが鷹の翼の義賊行為だ」

「なるほど。ただの盗賊だった夜鷹さんが義賊として名を上げたのにはそういうからくりがあったんだね。いいように使われていたってわけだ?」

「始めはわしが指名した人、家を狙うようにしておったが。あの者は世の中の光と影を全て熟知しておる。やがてわしの指示なく動くようになり、子供のような悪戯も増えていった」

「ただの義賊ではない。悪いこともして、新選組との関わりがないと証明するためでしょう」

「屯所の金子を狙われた時の悪戯に限っては、他のどこよりも悪戯がすぎたと思うが。俺の気のせいか?」

 小紅は夜鷹の元を離れ、名を紅花に変え近藤の娘に。ハナという、土方の小姓として18歳まで屯所で暮らしていた。その時間、約10年。

 紅花が屯所にいる時、もちろん何度も鷹の翼が襲撃したことはあった。だが紅花は夜鷹はおろか、彼らの誰にも会うことはなかった。

 なぜか?近藤からの絶対の指示で決して会わぬようにと、部屋に隠されていたからだ。ゆえに紅花には、鷹の翼の誰もが会ったことがなかった。

 それは夜鷹が自分で言いだした己への戒め。我が子をやむなく手放すことを選んでしまった最低な父を、苦しめるための戒め。

 それは同時に小紅をも苦しめることになってしまったが。彼女は彼女なりに新しい暮らしを受け入れた。捨てられることにはもう、慣れていたのだから。

 だが、それでも夜鷹は小紅の父親だ。屯所を襲撃し、近くにいる娘の顔を見ることもできないのは釈然としない。

 なので悪戯を、というよりも嫌がらせをした。特に、小紅のそばにいる土方を集中的に。

 近藤は憐みの視線を土方に向け、溜め息を吐く。土方が「な、何なんだっ!?」と吠えるが気にすることなく、濃い黄色の瞳を今度は小紅に向ける。

「喧嘩の原因はお前の名だ。夜鷹は小紅がいいと言い張り、わしは紅花がいいと言い張ってな。揉めに揉めた」

「え、私の名前?どっちにするかで揉めて、それで鷹の翼と新選組が何年も争うようになったのですか?」

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