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夫婦と親子と主従の因縁
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しおりを挟む守り袋などの授かりものは1年のみの効力。それをわかっていながら、土方は捨てずにいたのか。
原田や永倉が噂していたように、土方は本当に本気で紅花に思いを寄せていたのかもしれない。とは、この時の小紅は露ほどにも思っていなかった。
「返してほしかったら力づくで奪い返すか、もしくは夜鷹さんとの喧嘩の発端を素直に白状するかだよ」
そう言って黒鷹は近藤の財布と土方の守り袋を着物の袂の中へとしまってしまった。刀を構え直し、さぁどうするのかと近藤を見つめる。
普通に考えれば、普段の近藤なら悩むことなく力づくで奪い返そうと斬りかかっていただろう。
選択肢を与えた黒鷹自身、近藤が攻撃を仕掛けてくるだろうと身構えている。だがしかし、今は普通ではない。彼らに“次”はないのだ。
邪魔にならないよう少し離れたところで絶え間ない攻防戦を繰り広げていた小紅と土方。双方ともに手加減をしているのか、急所以外での傷が目立つ。
2人は急に静かになった近藤と黒鷹に気付き、距離を空けると攻撃の手を止めた。
シン、と静まり返った。地上では他の仲間達が戦っている。その音さえも聞こえなくなるほど、近藤の大きな体から発せられる雰囲気に惹かれる。
穏やかで、まるで鏡のように波立たぬ湖のような。その湖に太陽の光が差す、そんな暖かささえも感じる。
「お前達に笑われてしまいそうなほど、くだらぬ理由だ。事の発端は、わしの元へ来た時に夜鷹が娘との生活に苦しんでいると打ち明けたところに始まる――」
近藤はスッと顔を上げ、小紅に顔を向けた。濃い黄色の瞳。その瞳の奥にどんな感情を抱いているのか、小紅にはわからない。誰にもわからない。
白状することを選んだのか。驚きを隠せない3人は、そのまま静かに言葉を続ける近藤の話に耳を傾ける。
近藤が言う「打ち明けた」時というのは、小紅が自分は夜鷹の娘だと打ち明けた時に話していた7歳くらいの時のことか。
たしか、夜鷹は鷹の翼の頭領として黒鷹達と暮らしながらも、別の家で小紅の面倒も見ていた。小紅と町に出ていた時に新選組に見つかって、近藤に呼び出されたと。
夜鷹にとって、血のつながりのない家族も血のつながった家族も同じくらい大切で。小紅の幸せを考えると手放すほかなかった。
近藤の提案で小紅はそれからある場所で育てられてきたと、詳しくは語られなかったが。それが新選組だというのはつい最近明らかになった。
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