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夫婦と親子と主従の因縁
4P
しおりを挟む「幸せそうで何よりだ、黒鷹。守りたいものができますます強うなって、最後の戦いにふさわしくなった」
「まだまだ、僕も紅ちゃんもこんなもんじゃないよ。それよりさぁ。言っていたよね?僕が生きて帰ってきたら、夜鷹さんと近藤の喧嘩の発端を明かしてくれるってさ」
「む、そうだったか?すまんが、最近は物忘れが酷くてな。そんなことを言うた覚えがない」
「確かに聞いたよ!?あんたの思惑通り、僕は死に損なった。皆と、小紅ちゃんのおかげで生きて帰ってこれたんだ。さぁ、約束通り話してもらうよ」
「覚えておらぬ約束など、無効だ。今はこの戦いに集中しなさい」
ギリリッ。音がはっきり聞こえるほど強く歯を食いしばる黒鷹が、元気に吠えた。悔しそうに、近藤を睨みつける。
逃げたな、近藤。明らかに目を反らし、低く身をかがめて下から突き上げてきた刀を上から叩き払うと顔面目掛け蹴りつける。
が、その迫りくる太い足に黒鷹は瞬時に刀を滑らせる。骨までではないが、深く入った。
もう片方の刀で同じ場所をもう1度斬りつけようとするが、今度は避けられた。大きく跳び下がり、何を思ったのか近藤は黒鷹の夜空色の瞳を見据える。
フッと緊張が和らいだ、ような気がした。近藤は刀を右手で持ち下ろすと、空いた左手をダランと同じく下ろした。
やや太い眉がグッと寄って眉間に深いシワが寄った。「はぁ」と小さく溜め息を吐き、片手を差し出す。
「……わしの金子、それからトシの守り袋を返しなさい」
一瞬はキョトンとしたものの、ニコッと微笑んだ黒鷹が胸元から取り出したのは財布と守り袋。桜鬼のように盗賊らしく盗んだのか。
ここでようやく盗まれていることに気付いた土方が「あぁっ!?」と声を上げ、なぜか顔を真っ赤にさせる。
小紅には見覚えがあった。土方のだというその守り袋は以前、彼があまりにも激務が続き心身ともにボロボロだったために紅花が買ってきたもの。
少しでもいいから横になって、大きく息を吐いてほしいと。土方の身を案じて遠くの神社まで足を延ばして買ってきた、紅花の思いが詰まった守り袋。
薄水色の守り袋の裏には紅花が自分で縫った“土方”の刺繍が施してある。もう何年も前のものを、土方は大事に身に着けていたのだ。
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