鷹の翼

那月

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夫婦と親子と主従の因縁

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 かすりもしなかった。真後ろから音もなく迫りくる短刀が見えているのか、近藤は振り向くことなく避けてみせるとグンッと前に出る。

 手を伸ばし、黒鷹の肩をつかむと引き寄せた。さっきとは逆に土方が地面に這いつくばっていたところを、黒鷹が斬りつけようとしていたためだ。

 近藤はその、つかんだままの黒鷹をさらに強くグイツと引っ張る。隊服をひるがえして、真後ろに突き出すとうめき声が聞こえた。

「くっ!!…………私達は新選組もお上も恐れません。自分達の明るい未来のために戦うのです。たとえ相手が父であっても、ずっとそばに置いてあーだこーだこき使ってくださった主であっても」

「紅ちゃんッ!!」

 本当に、後ろに目がついているようだ。近藤は、背後から斬りかかってきた小紅の目の前に愛する夫を盾として突き出した。

 小紅は左手で短刀を持つ右腕をつかんで勢いを殺す。なんとかギリギリ、短刀の切っ先は黒鷹の鼻先寸前で止まった。

 相当な負荷がかかったのだろう。激痛に右肩を押さえて顔をしかめる小紅は、それでもその赤黒い瞳に近藤を映して反らさない。

 急に叫んだ黒鷹が近藤の拘束から抜け飛び出し、小紅に向けて刀を突き出した。

「私は新たな居場所を、私が生きる意味を、生きたいと願う理由を見つけました。私を愛してくださる黒鷹様、見守ってくださる皆。そして、全てを託してくださった夜鷹様の想いのため、恐れず前を向いて突き進むのです」

 黒鷹が瞬時に突き出した夜鷹の刀は小紅の顔の右側から彼女の背後に、今まさに刀を振り下ろさんとしていた土方の頬をかすめ赤い線を引いた。

 すぐさま、短刀を逆手に持ち替えた小紅が目を向けることなく背後の土方に突きで脇腹を斬りつける。

 今度は黒鷹が近藤を蹴り飛ばし、2本の刀で連続的に切りかかる。さっきよりも速い、だけではなく振り下ろされるたびにブンッ!と風が鳴り風圧で近藤の濃い灰色の髪が舞い上がる。

 これが真に通じ合う者の連携か。近藤は素直に驚いた。ここまでお互いを信じ背中を預け合う、心が深く繋がった者を、見たことがなかった。

 ゆえに近藤の口角が上がった。笑みを浮かべ、ブンッ!と勢いよく刀を振り下ろす。

 横に跳び避けたが、わずかに避けきれず黒鷹の右足が赤く染まった。さらにもう1度。今度は振り上げられた刀が黒鷹の反らされた右耳をかすめる。

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