鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
368 / 386
夫婦と親子と主従の因縁

2P

しおりを挟む

「やぁ、鬼の副長さん。僕の妻が昔そちらで大変お世話になっていたようで?おかげで今は愛情がこもった、とっても美味しいお茶が毎日飲めるよ」

「ハッ!うちにいたのは紅花、ハナだ。テメェの嫁の小紅じゃねぇ。礼をしたいんなら大人しくその首を差し出しやがれ」

「何言ってんの、バカじゃない?僕は紅ちゃんとの幸せな未来のために、僕のために命をかけて戦ってくれている皆との未来のために戦うんだ。生きるための戦いなんだよ」

 黒鷹、わざと土方を屋根の縁へと追いやっている。病を抱え大怪我を負っているとは到底思えない。左右の刀で舞うように、流れるように刀を振るう姿は美しいと思えるほど。

 だがこれは剣舞ではない。土方の一撃を受け流した黒鷹が1歩踏み出せば、土方の腕から血しぶきが上がる。

 さらにもう1歩踏み出して反対側の腕を斬りつけようとするが、そうはさせまいと土方が反撃。素早く弾いて袈裟懸けに斬り下ろした。

 が、それを黒鷹は見切って止めた。弾かれた勢いが強くて尻餅をついてしまい、絶体絶命かと思われたのに。刀で受け止めるのでは間に合わないと悟ったのか、動かしたのは――

「あ、あ、足ぃっ!?てめ、行儀悪すぎるだろう!足で斬撃止めるたぁ聞いたことねぇぞっ」

 正直、できるとは思っていなかった。黒鷹はとっさに両足を振り上げて真剣白羽取りよろしく足で刀を止めてしまったのだ。

 驚きつつも「あはっ」と笑う黒鷹の足から刀を振り抜き再び、起き上がろうとしている黒鷹に刀を振り下ろす土方。命と未来を懸けた真剣な戦いなのに、なぜかそれが感じられない2人だ。

「はっはっはっはっ!なんだか楽しそうだなぁ!わしも混ざりたいところだが」

 こちらも思い入れが深い2人の対決となった。育ての親である近藤と、その娘であり裏切者の小紅。刃を交えるのはこれが初めてではない。

 紅花だった頃、何度か稽古をつけてもらっていた。1度も紅花が勝ったことはないが。

 何かと危なっかしい戦いを繰り広げている2人に大笑いしている近藤に、容赦ない一撃。小紅愛用の短刀が目を背けている近藤に襲いかかる。

「ずいぶんと余裕ですね、新選組局長、近藤勇。私なんかがあなた様にかなうなどと到底思いもしませんが」

「そういう割には迷いがないな?………………わざわざ、死ぬるために来たか」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幕末レクイエム―士魂の城よ、散らざる花よ―

馳月基矢
歴史・時代
徳川幕府をやり込めた勢いに乗じ、北進する新政府軍。 新撰組は会津藩と共に、牙を剥く新政府軍を迎え撃つ。 武士の時代、刀の時代は終わりを告げる。 ならば、刀を執る己はどこで滅ぶべきか。 否、ここで滅ぶわけにはいかない。 士魂は花と咲き、決して散らない。 冷徹な戦略眼で時流を見定める新撰組局長、土方歳三。 あやかし狩りの力を持ち、無敵の剣を謳われる斎藤一。 schedule 公開:2019.4.1 連載:2019.4.19-5.1 ( 6:30 & 18:30 )

7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】

しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。 歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。 【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】 ※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。 ※重複投稿しています。 カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614 小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

陸のくじら侍 -元禄の竜-

陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた…… 

処理中です...