356 / 386
最初の酒は甘かった
10P
しおりを挟む3本の赤い線を胸に刻まれた原田。その胸を押さえていた真っ赤な手で槍を握り締めると、突っ込んでくる彼よりも早く走り一気に距離を詰め槍を思い切り振り下ろす。
ダンッ!と大きく足を踏み出して勢いを殺し、大きく上半身を反らして後ろに飛び避ける。
桜鬼の反応は早く槍は彼にかすりもしなかった。しかし、振り下ろされた槍はそのままの勢いで地面に深く突き刺さった。
そしてグッと体重をかけると原田は槍を軸に跳び上がった。高く高く。槍よりも高く、逆さまになって、桜鬼を飛び越える。
普通の槍使いにはできない身のこなし。開いた口が塞がらない桜鬼を逆さまに見下ろす原田は彼の背後に足先が触れた瞬間、槍を抜きながら素早く一閃。
ヒュンッ!と、空気が鳴った。すぐあとにガキィンッ!と金属がぶつかる音が響き原田の表情が曇る。
「俺の新技にも対応できるのかよ。ほんっとお前って、背中に目がついてるんじゃないか?」
「くっ……そんなわけないでしょ。でも、後ろは見えているような気がするよ。だって僕の目は、2つだけじゃないからね」
原田の思わぬ新技に驚きのあまり口をポカンと開けていた桜鬼だったが。さすがは元鬼面団、目を離さず冷静に反応。
振り返りながら彼の着地点に踏み込んで、槍を受け止めてみせた。が、わずかな遅れで惜しくも槍は左肩、鎖骨のあたりにめり込む。
槍の刃の半分ほどを肩に埋めた状態で留めている鉤爪はカタカタ震え、桜鬼の額に玉のような汗が浮かぶ。
力勝負だ。原田は上から体重をかけて槍を押し込み、桜鬼は両手の鉤爪で何とか押し返そうともがく。
押して押されて、桜鬼の左肩が何度も押し付けられるたびに血しぶきをあげる。もう、左半身は血まみれだ。
「うぅっ……ぐ、うぅぅっ…………僕は、まだ終わるわけにはいかないんだ。やっと見つけたんだ、俺の生き甲斐のために……ッ!!」
斬られるのを覚悟で、原田のすねを蹴った。肩から脇のあたりまでをザックリ斬られ、蹴った反動で後ろによろめく桜鬼。
失血しすぎだ。目がかすんできて、苦しそうに荒い呼吸を繰り返すあたりもう長くはもたない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~
テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。
大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく――
これは、そんな日々を綴った物語。
がむしゃら三兄弟 第三部・長尾隼人正一勝編
林 本丸
歴史・時代
がむしゃら三兄弟の最終章・第三部です。
話の連続性がございますので、まだご覧になっておられない方は、ぜひ、第一部、第二部をお読みいただいてから、この第三部をご覧になってください。
お願い申しあげます。
山路三兄弟の末弟、長尾一勝の生涯にどうぞ、お付き合いください。
(タイトルの絵は、AIで作成いたしました)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
あの日、自遊長屋にて
灰色テッポ
歴史・時代
幕末の江戸の片隅で、好まざる仕事をしながら暮らす相楽遼之進。彼は今日も酒臭いため息を吐いて、独り言の様に愚痴を云う。
かつては天才剣士として誇りある武士であったこの男が、生活に疲れたつまらない浪人者に成り果てたのは何時からだったか。
わたしが妻を死なせてしまった様なものだ────
貧しく苦労の絶えない浪人生活の中で、病弱だった妻を逝かせてしまった。その悔恨が相楽の胸を締め付ける。
だがせめて忘れ形見の幼い娘の前では笑顔でありたい……自遊長屋にて暮らす父と娘、二人は貧しい住人たちと共に今日も助け合いながら生きていた。
世話焼きな町娘のお花、一本気な錺り職人の夜吉、明けっ広げな棒手振の八助。他にも沢山の住人たち。
迷い苦しむときの方が多くとも、大切なものからは目を逸らしてはならないと──ただ愚直なまでの彼らに相楽は心を寄せ、彼らもまた相楽を思い遣る。
ある日、相楽の幸せを願った住人は相楽に寺子屋の師匠になってもらおうと計画するのだが……
そんな誰もが一生懸命に生きる日々のなか、相楽に思いもよらない凶事が降りかかるのであった────
◆全24話
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
開国横浜・弁天堂奇譚
山田あとり
歴史・時代
村の鎮守の弁天ちゃん meets 黒船!
幕末の神奈川・横濵。
黒船ペリー艦隊により鎖国が終わり、西洋の文化に右往左往する人々の喧騒をよそに楽しげなのは、横濵村の総鎮守である弁天ちゃんだ。
港が開かれ異人さんがやって来る。
商機を求めて日本全国から人が押し寄せる。町ができていく。
弁天ちゃんの暮らしていた寺が黒船に関わることになったり、外国人墓地になったりも。
物珍しさに興味津々の弁天ちゃんと渋々お供する宇賀くんが、開港場となった横濵を歩きます。
日の本の神仏が、持ち込まれた異国の文物にはしゃぐ!
変わりゆく町をながめる!
そして人々は暮らしてゆく!
そんな感じのお話です。
※史実をベースにしておりますが、弁財天さま、宇賀神さま、薬師如来さまなど神仏がメインキャラクターです。
※歴史上の人物も登場しますが、性格や人間性については創作上のものであり、ご本人とは無関係です。
※当時の神道・仏教・政治に関してはあやふやな描写に終始します。制度的なことを主役が気にしていないからです。
※資料の少なさ・散逸・矛盾により史実が不明な事柄などは創作させていただきました。
※神仏の皆さま、関係者の皆さまには伏してお詫びを申し上げます。
※この作品は〈カクヨム〉にも掲載していますが、カクヨム版には一章ごとに解説エッセイが挟まっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる