鷹の翼

那月

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最初の酒は甘かった

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「そうねぇ、強いて言えば鷹の翼の味方かしら?今だけは特別よ。こんなの、本当は許されない。でも鷹の翼には大きな借りがあるから、ちぃも命がけなのよー」

「千歳さん。前々から思ってたんだけど、他の情報屋とは全然違う。今なんか特に、何か術でも使ってるんじゃないかって思う時があるし。心ここにあらずな時があったり変な言動があったり…………あなたは一体、何者なんですか?」

 永倉と千歳を警戒しつつも原田に鉤爪を向けている桜鬼は、今ほど彼女を疑ったことはない。

 彼女はあまりにも他の、普通の情報屋とは違いすぎる。狐モドキが見えれば納得するか?いや、ことはそんな簡単なものではない。

 真剣な赤い2つの炎に、千歳は「困ったわねぇ」と苦笑。やがて艶やかな唇に人差し指を当てるとニッコリ微笑んだ。

「ごめんね、ちぃの情報は非売品なのよー」

 まったく、情報屋らしい返答だ。鷹の翼に大きな借りがあると言っていたが、どんな借りなのだろう?

 それに先代頭領の夜鷹や現頭領の黒鷹ではなく「鷹の翼に」、というのが気がかりだ。まぁ、さらに追及したところで答えを教えてくれるような女ではない。

「そんな嫌そうな顔をしないでちょうだい。これが最初で最後の介入。ちぃが特別に、永倉君を戦闘不能にしてあげるわ、うふふふっ」

 黒い笑みだ。女の黒い凄みに、尻に敷かれている永倉の顔が青に変わる。己の最後を悟ったな。

「おいおいおいっ、新八さんに何するつもり――」

「ひっ……うっぎゃぁぁぁああぁぁぁぁっ!!!!」

「「!!??」」

 嫌な予感がした原田が桜鬼を無視して永倉に駆け寄ろうと1歩踏み出すと、千歳は永倉の耳元に顔を寄せて何かささやいた。

 普段は首に巻いているとても長い茶色い髪がスルリと落ちて顔を隠し、彼女が何と言ったのかは見えなかった。けれど永倉のこの反応だ。

 一体どんな情報を吹き込まれたのか、永倉は大絶叫ののち、衝撃的過ぎて気を失ってしまったようだ。本当に、千歳は何を言ったんだ?

 白目までむいて完全に動かなくなった永倉を確認すると千歳は満足そうに顔を上げ、顔を隠していた長い髪を首に巻く。

 鷹の翼寄りの悪趣味だな。永倉のためにも隠してやりたいくらい酷い顔になっているのを指さし、「汚い顔ねぇ」とクスクス笑っている。

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