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最初の酒は甘かった
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しおりを挟む誰の味方でもない中立の立場である情報屋の千歳が、なぜこんなところに?まさか、今さら「たまたま来てみたんだけど知らなかったー」とは言わないだろう。
地面に伏せたまま身動きが取れなくなった永倉は大混乱。呻きながら必死にもがくが、関節を固めている狐モドキ達はビクともしない。
「桜鬼はあなた達との始まりに返って己を見直し、覚悟を決めようとしたのよ。本当は情に厚すぎて腹もくくれないようなビビリ男だけど、今やっと本来の姿に戻ったわねー?」
「俺はひとりで戦ってるんじゃないから。俺も仲間の皆も、原田達も皆、必死で戦ってるから。それに頭領が言ってくれたのを思い出したんだ。『思う存分、自分らしく全力で戦って悔いのないように』ってね」
それは鷹の翼全員に伝えられた頭領からの言葉。優しすぎて、覚悟ができずに逃げ腰になっていたのは桜鬼らしいと言える。
だがそれでは半分間違っている。統合してどこからか見守ってくれている彼、桜樹ならどうだっただろう?
優しいところもあるから、最初は躊躇うかもしれない。けれど殺戮大好きな彼のことだし、気持ちを切り替えて全力でバンバン攻撃しまくっていたかもしれないな。
だったら、今の桜鬼らしいとは?考えた結果、彼は今度こそ覚悟を決めることができた。
「情報屋の千歳さんが、何で鷹の翼の味方をするんだよ?雇われたのか何なのか知らないけど、俺達の邪魔をするんなら怪我したりうっかり命を落としたりしても知らないから」
永倉の近くにしゃがみ込んで顔を覗き込む千歳を、原田が睨みつける。
双方に情報の売買はしているがこの戦いに参加する理由はないはずだ。ましてや鷹の翼の手助けをするよう雇われるなど、彼らのことを考えれば有り得ない。
「何でって、気まぐれ?だって鷹の翼は1人、和リンの分が人手不足なんでしょう?いくら思い入れがあるからって、桜鬼1人を寄ってたかって2人で倒すなんてねぇ。新選組の名が廃るわよ」
「どっちの味方だよ、千歳さ――うぐぅっ!?お、重っ」
うわ、起き上がろうとした永倉の背中に座ったぞこの女。乗っているのは千歳だけでなく、狐モドキが数匹。しかも気まぐれって、本当にただの人数合わせのためなのか?
女性に対して大変失礼な言葉を口から漏らした永倉の後頭部を容赦なくバシンッ!と叩いた千歳は、目を反らし「本当は最後まで見届けるだけだったんだけど」と悲しげに呟いた。
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