349 / 386
最初の酒は甘かった
3P
しおりを挟む「新八さんっ!!」
やっと復活したらしい原田が叫んだのと、永倉の刀がザンッ!と突き刺さったのはほぼ同時。桜鬼の呼吸が止まった。
「はっはっはっ……はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ……」
永倉は、桜鬼の無防備な喉に刀を突き刺すことができなかった。そのすぐ横の地面に深々と埋もれた刀が、握る手が震えている。
死を覚悟しギュッと閉じられていた桜鬼の赤い瞳がゆっくり開かれると、そこにある永倉の顔を映す。映ったのは、永倉新八という1人の人間の姿。
目を見開き、驚きを隠せない表情。荒い呼吸と震える手が、永倉の本当を桜鬼に教える。
背後で原田がホッと息を吐いた気がした。口元を拭いながら駆け寄り、永倉の様子をうかがう。そして気づいた。彼がなぜ、とどめを刺せなかったのかを。
「あんた、こんな時にあれを飲んだのかよ?」
桜鬼の口元を指さす原田は眉間にシワを寄せ、永倉の腕を引いて一旦下がらせる。早く終わらせる絶好の機会だったのに。
桜鬼は新選組が来る前に何か飲んでいたのか?まさか酒か?いや、酒に愛され酒を愛しすぎるアホな原田ではないのだから違うだろう。
ならヤバい薬か何かか?桜鬼でなくとも桜樹なら、あり得る。2人が小紅のおかげで統合できたとはいえ、桜樹の黒い部分はやんわりと残っているのだから。
だから桜鬼は、微笑んだ。2人に目を向け「だって最後だから」と、起き上がり少し切れた喉に手を当てる。
深くゆっくり息を吸い呼吸を整え、鉤爪を構えながらゆっくり息を吐く。イタズラっぽく笑う彼は「そんなに匂うかな?」と腰を落とすと地面を蹴った。
すぐに飛び出した永倉が華麗な刀さばきで鉤爪を絡め取り、身動きを封じている間に原田が追撃を決める。
そのはずだった。連携は完璧だった。永倉の刀が鉤爪2つを封じたまではいい。その直後、そうなることを予測していた桜鬼は両腕を思い切り振り下ろしたのだ。
背は高いが割と細身の体のどこにそんな力が秘められていたのか。クマのような体格の永倉は刀を手放せずに引き込まれ、前のめりに崩れる。
すでに槍を振り下ろしていた原田に桜鬼は、背後も見ずに後ろ回し蹴りをお見舞いする。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
浅葱色の桜
初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。
近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。
「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。
時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。
開国横浜・弁天堂奇譚
山田あとり
歴史・時代
村の鎮守の弁天ちゃん meets 黒船!
幕末の神奈川・横濵。
黒船ペリー艦隊により鎖国が終わり、西洋の文化に右往左往する人々の喧騒をよそに楽しげなのは、横濵村の総鎮守である弁天ちゃんだ。
港が開かれ異人さんがやって来る。
商機を求めて日本全国から人が押し寄せる。町ができていく。
弁天ちゃんの暮らしていた寺が黒船に関わることになったり、外国人墓地になったりも。
物珍しさに興味津々の弁天ちゃんと渋々お供する宇賀くんが、開港場となった横濵を歩きます。
日の本の神仏が、持ち込まれた異国の文物にはしゃぐ!
変わりゆく町をながめる!
そして人々は暮らしてゆく!
そんな感じのお話です。
※史実をベースにしておりますが、弁財天さま、宇賀神さま、薬師如来さまなど神仏がメインキャラクターです。
※歴史上の人物も登場しますが、性格や人間性については創作上のものであり、ご本人とは無関係です。
※当時の神道・仏教・政治に関してはあやふやな描写に終始します。制度的なことを主役が気にしていないからです。
※資料の少なさ・散逸・矛盾により史実が不明な事柄などは創作させていただきました。
※神仏の皆さま、関係者の皆さまには伏してお詫びを申し上げます。
※この作品は〈カクヨム〉にも掲載していますが、カクヨム版には一章ごとに解説エッセイが挟まっています。
平隊士の日々
china01
歴史・時代
新選組に本当に居た平隊士、松崎静馬が書いただろうな日記で
事実と思われる内容で平隊士の日常を描いています
また、多くの平隊士も登場します
ただし、局長や副長はほんの少し、井上組長が多いかな
【完結】ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
がむしゃら三兄弟 第三部・長尾隼人正一勝編
林 本丸
歴史・時代
がむしゃら三兄弟の最終章・第三部です。
話の連続性がございますので、まだご覧になっておられない方は、ぜひ、第一部、第二部をお読みいただいてから、この第三部をご覧になってください。
お願い申しあげます。
山路三兄弟の末弟、長尾一勝の生涯にどうぞ、お付き合いください。
(タイトルの絵は、AIで作成いたしました)
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
幕末群狼伝~時代を駆け抜けた若き長州侍たち
KASPIAN
歴史・時代
「動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し。衆目駭然として敢えて正視する者なし、これ我が東行高杉君に非ずや」
明治四十二(一九〇九)年、伊藤博文はこの一文で始まる高杉晋作の碑文を、遂に完成させることに成功した。
晋作のかつての同志である井上馨や山県有朋、そして伊藤博文等が晋作の碑文の作成をすることを決意してから、まる二年の月日が流れていた。
碑文完成の報を聞きつけ、喜びのあまり伊藤の元に駆けつけた井上馨が碑文を全て読み終えると、長年の疑問であった晋作と伊藤の出会いについて尋ねて……
この小説は二十九歳の若さでこの世を去った高杉晋作の短くも濃い人生にスポットライトを当てつつも、久坂玄瑞や吉田松陰、桂小五郎、伊藤博文、吉田稔麿などの長州の志士達、さらには近藤勇や土方歳三といった幕府方の人物の活躍にもスポットをあてた群像劇です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる