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暴君と傍観者
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しおりを挟む「少ねぇなっ!?つか、てめぇはそんなこと考えるやつだったか?本当に斎藤かよ?ゴホッゴホッ……ペッ!もっとこう、体にキノコでも生えそうなくれぇジメジメ根暗な引きこもりだと思ってたぜ」
実際、斎藤はジメジメ根暗な引きこもりだ。しかし他の隊員達と鷹の翼の人達が個人で関わっているのを見ていると、話を聞いていると、羨ましいと思う感情が芽生えた。
斎藤自身が1番驚いたことだろう。面倒なことは避けて、できるだけ余計な人との関わりはしないようにしてきた。
自分も誰か1人くらいは、仲良くなってみたい。自分とは真逆の性格だから、歳が近いから、高遠を選んだ。
でももう遅い。これが最期の戦いなのだ。これから斎藤が、原田と永倉と桜鬼の3人のように、高遠と親しくなることはできない。
だから、涙がこぼれた。悔しくて。どうして今日までにできなかったのだろう。部屋を出て、屯所を出て、町でよく暴れている彼に声をかけるだけなのに。
高遠と斎藤が仲良く笑い合っている姿もなかなかに想像しがたいが。それはそれで、今日の戦いが今以上に辛いものになっていたはず。あの3人のように。
他の人達のように個人の思い入れが強ければ強いほど、命を奪う手が止まってしまう。
「あんたが、俺の部屋まで来てくれたらもっと楽だったんだ」
馬鹿を言うな。何が楽しくて高遠が1人で敵地に乗り込まなければならないんだ。遊びに来た、とでも言うのか?斎藤なりの冗談だったのかもしれない。
いや、もしかしたら本心だったのかもしれない。それを見抜いたのか。高遠は大きく飛び下がってニッと笑った。
「じゃあ、俺様が特別に約束してやるよ。生まれ変わったらぜってーにてめぇを見つけ出してダチになってやる。そんで、全力で手合わせした後に飯を食いに行くんだ!」
「ダチ……友達?飯……?俺と、あんたが……」
同志という言葉に馴染みはあっても「ダチ」という言葉に馴染みがない斎藤の、動きが止まった。
ポカンと高遠を見つめ。彼が言った言葉を口元で紡いでみる。なんだかくすぐったくて、温かい。自然と笑みがこぼれた。
「来世の約束なんてどうせ忘れる。でも、すごく面倒くさくて嫌だけど、ちょっとだけ期待してやるよ。高遠、生まれ変わったらあんたを必ず見つけ出す」
「「約束だ」」
斎藤は刀を鞘に戻すと腰を低く落とし、高遠をまっすぐ見つめる。
高遠は刀を構え直して腰を低く落とすと、ダッ!と地を蹴り一気に間合いを詰める。
斎藤が刀を抜きながら振り上げたのと、高遠が刀を振り下ろしたのは同時。金属同士がぶつかり合う音は響かず、2つの影が重なった。
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