345 / 386
暴君と傍観者
9P
しおりを挟む高遠はやっと着火した彼を前に、これまでにないほどの高揚感を感じていた。本当に嬉しそうだな、楽しそうだな。
洗練された綺麗な太刀筋に見惚れ、寸前まで迫った刀の切っ先にハッと気づけばとんでもない反射能力と身体能力で避けてみせる。
滑らかで一切の無駄がない剣さばき。高遠の、性格が丸見えな荒々しい我流とはわけが違う。
形勢逆転、高遠が負けてしまうのか。誰が見ても一目瞭然。あと2、3回斎藤の刀を食らえば高遠は倒れる。その時だった。
高遠は、斎藤の異変に気が付いた。彼が本気になった時からそうだったのかもしれない。気持ちが高ぶって、繰り出される剣技がすごすぎて今まで気が付かなかった。
「っ……ふ、っ……このっ……くぅ、っ……」
「て、めぇ、何でそんな、はぁっはぁっ……グズグズじゃねぇか、よ」
斎藤は、泣いていた。
濡れた紫色の瞳からは大粒の涙がこぼれ、体をひねるたびにキラリと光る涙の粒が舞う。歯を食いしばって、大泣きにならないように耐えている。
「う、うるさい!俺はっ…………俺なりに、あんた達鷹の翼との関わりは好きだった。ズズッ、はぁ。だってあんた達は皆、悪者じゃない。はぁぁ」
「はぁ?俺様達は悪者、だろうが。ヒトサマの金を盗んで、お上に噛みついて、悪戯しまくる。これの、どこが悪者じゃないって言えるんだよ?」
高遠が振り上げた刃が斎藤の肩を斬り裂いた。手が緩んで刀が滑り落ちそうになったが、口を引き結んだ斎藤は落とすことなく愛刀をきつく握りしめる。
「確かに、所業は悪を尽くしている。けど、あぁもう面倒くさいな。わかれよ。あんた達は、鷹の翼は必要な存在なんだ」
「…………何が言いてぇんだよ」
「俺達新選組とあんた達鷹の翼は良き好敵手。個人の関わりもあって、思い入れも深い。原田さんや永倉さんはかなり、そっちの桜鬼と仲が良いし。よく、一緒に酒を飲んだ時の話を聞くんだ。それがあまりにも楽しそうで、つい自分達が敵同士だというのを忘れてしまうくらい。真の平和には多少の悪も必要。近藤局長は、そういった意味で鷹の翼の捕縛を避けてきた」
「…………」
「俺は高遠、あんたとこうして戦ってみたかった。俺とあんたは真逆だから。俺の刀であんたを圧倒したら静かになるのか最期まで抗うのか、気になった。それに俺達は歳が近い。組織に関係なく、まぁ……たまになら話もしてみたいと思っていた。そう…………年に1回くらいは」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる