鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
337 / 386
暴君と傍観者

1P

しおりを挟む

「だっさ……」

「うるっせぇっ!くっそがぁぁぁぁッ!!」

 言わずもがな。斎藤と高遠。

「戦う気がないなら俺帰る。じゃあね、マヌケな暴れ馬」

「待て、待て待て待て待てぇっ!?勝負はまだ始まってもねぇってのに、逃げるのかよ?戦わずして負け犬だなぁ!」

「………………あぁもう、面倒くさい。はぁぁ。うるさくてたまらないから、生き埋めにしてやる」

 性格がまるで正反対の2人が今、どこで何をしているのか?場所は、雪と沖田が戦っている庭の真裏にあたる2番目に広い庭。

 黒鷹に命じられて、高遠は斎藤の相手をすることを受け入れた。かなり不服そうだったが。

 それもそうだろう。高遠は自分より強い者との戦いを望んだ。しかし新選組の頭の近藤の相手は尊敬する黒鷹に譲るにしろ、副長である土方の相手は自分だと思い込んでいた高遠。

 土方の相手もまた、その人以外有り得ないというくらい相応しい者が選ばれていた。

 あとは鳶と山崎、雪と沖田のように因縁のある者や思い入れのある者が組まされ、高遠には残った新選組の中で力量的に考えて斎藤が当てられた。

 斎藤だって沖田、永倉、斎藤と争うほどの剣豪だ。任務でも本気で戦ったことなどほとんどない彼の相手が、果たして暴れ馬の高遠に務まるのか?

 捨て駒というわけではない。職務怠慢で戦闘意欲もない斎藤を本気にさせれば、高遠は彼に滅多打ちにされるだろう。

 なにせ高遠は戦いたい。やる気がなく今すぐ帰りたい斎藤にしつこく食らいつき、どうやってでも必ず腰の刀を抜かせる。

 そうして斎藤が本気になったら圧倒的な力で叩きのめされ絶望の淵に立たされる。だって斎藤は本当に強い。

 そして、高遠は喜ぶ。死の間際まで追い込まれれば追い込まれるほど彼はやる気に満ちる。意地でも倒したいと強く願う。

 そして、どんどん強くなる。斎藤に順応していく。桜鬼と、鳶と手合わせした時のように。相手に慣れて急速に成長する。それが高遠。

 さて。そんな高遠が今どうなっているのかだが。一言で言えば、穴にハマってギャンギャン吠えまくっている。

 ずいぶん前に作った雪お手製の、愛情のこもっているかもしれない落とし穴。高遠の身長よりも深い穴から手を伸ばせば手の平くらいしか出ない。

 よりによって高遠がハマってしまうとは。この場所に来たのにも意味はある。斎藤が逃げようとしたのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハンリュウ! 〜隋帝国の野望〜

魔法組
歴史・時代
 時は大業8(西暦612)年。  先帝である父・文帝を弑し、自ら隋帝国2代皇帝となった楊広(後の煬帝)は度々隋に反抗的な姿勢を見せている東の隣国・高句麗への侵攻を宣言する。  高句麗の守備兵力3万に対し、侵攻軍の数は公称200万人。その圧倒的なまでの兵力差に怯え動揺する高官たちに向けて、高句麗国26代国王・嬰陽王は一つの決断を告げた。それは身分も家柄も低い最下級の将軍・乙支文徳を最高司令官である征虜大将軍に抜擢するというものだった……。  古代朝鮮三国時代、最大の激戦である薩水大捷のラノベーション作品。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

【完結】雇われ見届け人 婿入り騒動

盤坂万
歴史・時代
チャンバラで解決しないお侍さんのお話。 武士がサラリーマン化した時代の武士の生き方のひとつを綴ります。 正解も間違いもない、今の世の中と似た雰囲気の漂う江戸中期。新三郎の特性は「興味本位」、武器は「情報収集能力」だけ。 平穏系武士の新境地を、新三郎が持ち前の特性と武器を活かして切り開きます。 ※表紙絵は、cocoanco様のフリー素材を使用して作成しました

日は沈まず

ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。 また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

ゾタウ

空川億里
SF
 少年ザデアは幼い頃から『ゾタウ』の話を聞かされていた。それは行ってはならぬ禁断の土地だと呼ばれている。  が、実際に行った者はいなかった。『ゾタウ』の謎を探るため成長したザデアは『ゾタウ』へと向かう。

処理中です...