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イヌとサル
4P
しおりを挟む沖田はあれでも新選組、一番隊の隊長。雪のいきなりの怪力速攻を見切り、両腕を盾にして蹴りを受け止めていた。
ジワジワ迫りくる“死”に抗うように、沖田は力を求めた。技を磨いた。
雪が言ったことに間違いはない。強くなるために沖田はたくさんの人と戦った。流派の使い手、刀以外の武器を使う者、様々な人達。
それは任務以外もあった。私闘を禁ずるはずの新選組が任務以外で刀を抜くなどあってはならない。土方や近藤に知られれば隊長とはいえど切腹は免れない。
なのになぜ今までそうならなかったのか?口止めをしているからだ。沖田に忠実な部下が後処理を完璧にこなす。
たとえ、相手を殺してしまった時でも。いわゆる証拠隠滅をしているから、沖田は“人斬り沖田”の噂が流れるだけに留まっている。
これが続けばきっと、沖田は人を斬りたい衝動を抑えられなくなってしまう。それは、沖田自身がよくわかっている。それでも、手を伸ばしてくる“死”に怯えるよりはマシだと。
「うっ……ゴホッゴホッ……あーびっくりしたなぁもー。コホッコホッ!今までとは比べ物にならないほどの怪力。本当の力?よくわからないけど面白そうだねー」
「今のは序の口ってやつや。あんなん、俺っちの全力の一割にも満たへんさかい、覚悟せぇよ」
「うげっ。じゃあ僕も手加減しないから、全力でかかってきてねー?」
ガラガラガラッとがれきが崩れ、中から沖田が這い出てきた。結構普通に。腕や背中に刺さっている破片を引き抜き、血が噴き出るのも構わず刀を構える。
出てこなければがれきの上からさらなる鉄槌を振り下ろそうかと考えていた雪は嬉しそうに、両拳を握り固める。
やけに自信に満ち溢れる雪を警戒しているのか、沖田は彼女を見つめたまま動かない。先に動けば負けるような気がした。
ただ拳を構えて立っているだけなのに、沖田は今初めて雪を怖いと思った。油断できない、危険な敵だと認識し寒気がした。
神経を研ぎ澄ませ、何の音も聞こえない。雪以外見えない。沖田以外見えない。
実際は近くで他の人達が戦っているので、物が壊れる音や、金属などが激しくぶつかり合う音が響いているのだが。
沖田と雪は2人の世界を作り出しているので他を遮断。時間の流れさえも感じず、お互いを見つめ合ったままピクリとも動かない。
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