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イヌとサル
2P
しおりを挟む一陣の風が舞った。空振った残念な雪の右腕から鮮血が舞う。斬られた。距離を空ける間もなく、沖田はさらに大きく1歩踏み出す。
赤く染まった腕を今度は斬り落としてやろうと振り下ろされる刀が、しかし肉を断つ前にガクンッと止まった。
雪はとっさに、空いていた左手で刀をつかんだ。素手だ。手の平が斬れるのも気にせずそのまま、ブンッ!と振り払う。
ここで沖田が手を離していれば彼の愛刀は屋敷の外へと姿を消していただろう。だが彼は手を離さなかった。
離さない代わりに地面を転がり、すぐに起き上がって刀を構える。口元に笑みを浮かべて小さく咳を2回。
「コホッコホッ……痛いのに、怖いことをするねー。女の子がすることじゃないよー」
「か弱い、守られるだけが女の子やないんや。笑うてないで戦いに集中せぇ。笑顔の裏にある本性さらけ出しぃ、その冷酷非道なあんたをブン殴っちゃるわ」
「僕が冷酷非道?誰からそんなこと聞いたのー?僕は誰にでも心優しいし、強きをくじき弱きを助ける理想の新選組様ですよー」
「嘘吐けぇ。知っとるで、あんた人斬るんが好きなんやろ?時々、仕事でやりすぎてゴロツキとか殺しかけるんやってなぁ?非番の時も、誰にもバレへんよう脅して――」
瞬間、沖田の顔つきが変わった。笑顔が消えて氷が張りつく。
「あーーーーっ!!きーめった!雪りんを捕縛するように言われたけど、抵抗するから殺しちゃおう。それで、首をあいつに見せてやるんだ。雪りんがだぁーい好きな、あいつにねー?」
叫び、ニヤリと笑う沖田。瞬間、雪の顔色が変わった。サァッと血の気が引いて青ざめる。
「そ、そんなことさせへん!俺っちはあんたに負けへんもんなっ!それや、その冷たい顔や。それがあんたの本性、人斬り沖田の顔やっ」
沖田は飛び出した。真正面から刀を振り下ろす、かと思いきや雪が拳で迎え打とうと脇をしめた瞬間、彼の姿がフッと消える。
真後ろに現れて雪の背中をなで斬り。すぐにまた姿を消して、フラつく彼女の左側から刀を振り上げる。
が、今度はそう簡単には斬られてやらない。雪は逃げられないようギリギリまで引き付け、一瞬で握り固めた拳を刀の背に叩き込む。
今度は沖田が体勢を崩し、勢い余って地面深くに刀が突き刺さってしまった。けれど彼はこれを好機ととらえた。
グググッ!と力ずくで刀を振り上げれば土が雪に襲いかかり、一旦跳び下がった彼女にさらなる追撃。
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