鷹の翼

新選組

９P

　２人は武器を手に構えたままお互いを見つめ合い、静かに呼吸を整える。

　先に動いたのは、２人同時だった。グッと体を低くして空気の抵抗を減らし、音もなく地を駆ける。クナイと小太刀が何度もぶつかるたび、星屑のような火花が咲く。

　斬りかかる。避ける。蹴る。突く。受け止める。殴りつける。土を蹴り上げる。打ち付ける。飛び具を投げる。

　もう手を止めない。鳶はどんどんその速度を上げていっているが、山崎もついて来れている。しっかり目で捉え、しかも先を読んでいるようにも見える。

　執念だけでここまでできるものなのか？しかし、タガが外れた鳶も負けてはいない。

　予想以上の山崎の成長を感じる鳶は、彼の攻撃を読んで身代わりを駆使し背後を取る。

　背中を大きく縦に斬りつけた。鮮血が舞い「ぐあぁっ！」と叫ぶ山崎は振り返りながら鳶の肩から胸を斬りつけた。

「ふっ、くくくっ……やっぱりあんた、大嫌いっすよ。せっかく頸動脈狙って終わらせようとしたってのに」

「適格に心臓を狙ったはず。避けられるとは。山崎丞の成長はこれからも見ていたかった、が」

　実に忍らしい、目で追えないほどに速すぎる攻防戦。一進一退を繰り返し、その場にとどまらず木々の影に隠れたり落ち葉や土を目くらましに使う。

　時には攻防を交わしながら木を駆け上がり、木々の間を飛び交う。金属が激しくぶつかり合う音が、何かが打ち付けられる音が響く。

　２人のくぐもったうめき声、熱く力強い気合いの声、それから音のない熱い想いがよく響く。

　徐々に２人の体に傷が増えていく、深くなっていく。鮮血が飛び散って。呼吸が荒くなっていく。考えず思うがまま、本能的に、体が動くように。

　ほぼ互角か。もしかしたら相打ちになるかもしれない。そう思ったのだろう。

　次で決着をつけようと、２人はお互いを蹴って跳び下がると同時に姿を消す。速すぎてわからない、どこに行った？

　上だ。地面を蹴り空高く飛び上がった鳶と山崎。２つの影が１つに交錯したその時、鳶の背筋が凍った。

「ゆき……？」

　瞬間、鳶の体が大きく震えた。熱い。寒い。

　真っ逆さまに、青白い顔の鳶は落ちていく。驚いた表情の山崎がみるみる遠ざかっていく。

「とっ、鳶ーーーーっ！！！！」