鷹の翼

那月

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新選組

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「俺も死ぬつもりはない。俺は、鷹の翼。それに…………雪の、夫だから」

「うぐぅっ!このっ……ノロケかよぉっ!!」

 鳶だって覚悟を決めて待ち構えていた。決戦前夜に雪と大事な約束も交わした。雪のため、死ぬわけにはいかない。

 雪なら相打ちなんて考えないだろう。最初から全力で殴りがかって、攻撃の先なんか考えずに思うがまま体が動くがまま本能に任せて戦う。

 勝とうが負けようが、全力で戦いきればそれでいい。悔いさえ残らなければいい。それが雪という人間。

 それを思い出して、昨夜のことを思い出して、鳶の青い瞳に宿る炎が燃え上がった。

 すぐ目の前にある山崎の瞳を睨み返し、手を伸ばすとクナイが深く刺さっていた右肩の傷口をつかむ。ビクンッ!とひるんだ隙にクナイを振り下ろす。

 さっきの超大爆発のせいで2人共、両腕と両足に多少のやけどを負ったが。大樹が2人を守ってくれたおかげでそれ以上の大怪我にはならなかった。

 もう手加減はしない、本気でいく。鳶の心と体を抑制していたタガが外れた。クナイを手に、問う。

「未来のために。お前は、何のために戦う?」

 避けられた。鳶の腹をドンッ!と蹴って避けながら立ち上がる山崎をしっかり目で捕え、反撃に迫ってきた棒を受け流す。

 それを読んでいたのだろう。棒を地面に突き立てた山崎は地面を蹴って体をひねり上げる。さらに足を振り上げ、鳶の顔面目掛け蹴りつけた。

 ニンマリと笑って、とっても嬉しそうだな。とっても楽しそうだな。恐ろしいほどに。狂気。

「誰のためでもねぇっす…………俺様は、俺様のために戦って生きるんすよぉッ!!」

「……山崎丞。お前らしい、答え。安心した」

「なめるなっす!ここまで来て手ぇなんて抜くなっすよ!?お、おい、何がおかしいっ!?てめぇが笑うなんて気持ち悪いっすよ!?」

「………………手は、抜いていない。お前が強くなっている。が……そう簡単に、首はくれてやらん」

 上半身をのけぞらせてギリギリかわした鳶。布で口元を覆っていてもわかるくらいに、鳶は笑っていた。優しい、柔らかな笑顔。

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