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新選組
4P
しおりを挟む山崎の緑色の瞳には、鳶の背後にある大量の起爆札とへし折られた枝が映っていた。鳶は、張り巡らされていた細い糸を手繰り寄せている。
こんなにも仕掛けてあったか?もとはといえば山崎が仕掛けた、自棄ともいえる罠だったが、それにしても多い。
十数枚ではない。何十枚もの起爆札と、一緒に落下しながら無理矢理引っ張ってへし折った槍のように鋭い枝が恐ろしい。
こんなもの、1つでも発火すればとんでもない規模で大爆発だ。離れている屋敷まで轟くくらいの、鳶だって軽傷では済まない。
「捨て身っすか。こんなに早く終わらせねぇっすよ。もっと、もっと本気でぶつかり合うために我慢したんだッ!」
「やまさ――!?」
「面倒な偵察任務も!」
鳶らしくもない大胆なことをするもんだ。大きく目を見開き血の気が引いた山崎は、ギリリッと歯を食いしばる。頭上の死にたがりを、睨んだ。
まるで肩の傷なんてないようだ。痛みも気にせず鳶がつかんでいる糸を、手裏剣を投げて切ると鳶の腕をつかみ跳び下がる。
「退屈でイライラする潜入捜査も!時には女装して臭ぇクソオヤジの相手をした!」
瞬間、起爆札の1つが着火。鼓膜が破壊されそうなほどの爆音を轟かせ、失明しそうなほどの眩しい光を放って超大爆発。
「任務の合間にあんたのことを調べて、くっ!技を磨いて、力をつけて……」
2人は吹っ飛ばされながらも樹齢が三ケタ年であろう大樹の裏に転がり込み、身を縮めて耐える。
「あんたと心置きなく戦えるのを楽しみにしてたんだっ!あんたが考えていることはわかってるんす、そう簡単に…………死なせてなんかやらねぇっすよ」
山崎は鳶の胸ぐらをつかんで睨みつけ、笑った。
死ぬ気で戦う。一目見て、山崎が今までとは違う強い力をつけ強い心と決意をもって熱い熱い炎をたぎらせていると感じた。
天才忍者の鳶に一度も勝てなかった山崎はもういない。同等かそれ以上か、手を抜けばやられる。
だから、相打ち覚悟で起爆札を手繰り寄せた。けれど彼はそんな終わりは望んでいない。自分が死なないのはもちろんのこと、今までに感じたことのない熱い戦いを望んでいる。
まさか助けられるとは思ってもみなかったが。山崎もこの戦い、というか鳶個人に対する想いはとんでもないものだ。
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