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零落
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しおりを挟む大事な家族は猫丸の武器でもある。猫達は猫丸の命令1つで従順に動く。どんな場所にでも赴き、どんな相手にも襲いかかる。命がけで。
猫達の群れの長が、猫丸だから。群れの長である猫丸は新しい命を宿した母猫を裏山に逃がした。群れから離れさせた。
群れの猫達は新選組との決戦に参加、最後のその時まで猫丸の牙となり爪となり盾になる。
生まれてくる新しい無垢な命まで犠牲になることはない。だから猫丸は、子猫に名前をつけなかった。
群れの長である猫丸が名前を与えればその子はその瞬間から群れの一員の仲間入り。自由はない。人間達の戦いの道具にならない“ただの野良猫”として、子猫はこれからを生きていく。
「これから、かぁ。1度でえぇから猫丸みたいに猫にまみれてみたいわぁ。俺っちの密かな野望や。子猫のお世話をするんもえぇなぁ」
徐々に鳶の動きの先を読み始めている高遠を「すごいなぁ」と眺めている雪が、猫丸の膝の上でゴロゴロ喉を鳴らしている白い猫に手を伸ばす。
でも触れる前に引っ込めてしまった。苦笑して頬を掻く雪をジッと見つめ、猫丸は白い猫をジッと見つめる。
そしておもむろに白猫を抱き上げると、雪の目の前へ突き出す。茶色の瞳いっぱいに、白いモフモフ。ニャー。
「な、何やのん、ねこま――」
「雪さんはもっと欲を出して、わがままになって。丸も、野望?興味?は、ある。丸は、雪さんと兄ぃの赤ちゃん、見てみたい」
猫丸の黒い瞳に、白い猫の瞳に雪のハッとした顔が映る。
白い猫は目の前だ。手を伸ばせばすぐに抱ける。でも、雪の手は動かないし声も出ない。自分をまっすぐ見つめる瞳から目を反らせないでいる。
なぜか?猫丸も白い猫も純粋だからだ。純真無垢。何の穢れもない純粋な想いだからこそ、戸惑ってしまう。
鳶と雪は夫婦だ。黒鷹と小紅夫婦とは違ってすぐに一線を越えている。が、子供はなかなかできない。そういう体質なのかもしれない。
愛し合う者としてそれなりに行為はしている。子供は、できればいいというくらいで強くは望んでいない。だから授からないのかもしれないな。
何しろ2人共が義賊の一員だ。義賊の両親を持って生まれた子供なんて、あまり良い思いはしないはず。
だから、子供はできなくてもいいと思っている。思っていた。猫丸の、この目を見るまでは。クリクリパッチリの黒い大きな、ちょっと猫みたいな目。
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