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零落
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しおりを挟む各自に個人的な想いがあっても、感情に流されてはならない。頭ではわかっていても、覚悟を決めていてもその時が来れば。それが人間だ。
「………………寂しい……かもしれない」
くぐもった、斎藤の小さな呟きに蹴り続けていた山崎の足がピタリと止まる。
「あんたはほとんどあいつらの相手をしてなかったじゃねーか。いつも『嫌だ嫌だ、面倒くさい』とかぼやいて、寸前に姿くらまして」
「そうだっけ?」
「そうだった!!あたかも参加してたようなこと言うなよ!そもそも――」
「そういえばさぁ。1対1になるんなら、お頭対決ってことだよねぇ?黒鷹と、局長。話によれば黒鷹は病気らしいし、戦う前から勝負は決まってるよねぇ?やる意味あるの?」
こら山崎、話を遮られたからってイラついてミノムシ斎藤を蹴らない。ゴスゴス蹴らない。
黒鷹の病気のことは、黒鷹と小紅が夫婦になった時に新選組にも知れている。これに反応を示したのが、同じ病と闘う沖田だ。
彼はまだ誰にも打ち明けていないが、咳がおかしいのは薄々周りの気を引いている。黒鷹の病についてあまり触れていると疑われるぞ。
「沖田さんは、この戦いに意味がないと?」
「さぁー、どーだろーねぇ?少なくとも僕は…………うん、楽しみかなー?」
斎藤に問われ、沖田は少し黙って考えたのちにそう答えた。どんな因縁があるのか、雪とまた会って戦えるのが楽しみなんだろうな。
誰もがそう思うほど、沖田の笑顔が眩しい。いたずらっ子の笑顔。悪魔の笑顔。
普段滅多に怒らない明るい雪が、ゆいいつこの沖田にだけはイライラを隠さずに滅多打ちにするのだから。一体何をしたんだ?
「俺様も楽しみっすね。あの鳶のヤローをこの手で倒せると思うともう、心臓が高鳴ってたまんねぇ」
そう言うと思った。とでもいうように、他の3人は山崎に目を向ける。もはや山崎の頭の中は鳶でいっぱいだ。
「私は、相手が誰であろうとかまわぬ。ただ……女子供を相手にするのはやはり少しばかり気が引けるな。斎藤君はどうだ?」
女子供、小紅と猫丸のことか。雪も含まれている?新選組の仕事上、女を相手にすることは少なくともたまにある。だが、猫丸のような子供を相手にすることはほとんどないに等しい。
そうは言っても松原だ、真摯に向き合って全力で戦うのだろう。山崎に蹴られて床をゴロゴロ転がっていた斎藤に目を向ける。
目が回ったか?彼はしばらく黙り込んだあと、はっきりと言った。
「寂しいな」
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