鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
310 / 386
零落

5P

しおりを挟む

 各自に個人的な想いがあっても、感情に流されてはならない。頭ではわかっていても、覚悟を決めていてもその時が来れば。それが人間だ。

「………………寂しい……かもしれない」

 くぐもった、斎藤の小さな呟きに蹴り続けていた山崎の足がピタリと止まる。

「あんたはほとんどあいつらの相手をしてなかったじゃねーか。いつも『嫌だ嫌だ、面倒くさい』とかぼやいて、寸前に姿くらまして」

「そうだっけ?」

「そうだった!!あたかも参加してたようなこと言うなよ!そもそも――」

「そういえばさぁ。1対1になるんなら、お頭対決ってことだよねぇ?黒鷹と、局長。話によれば黒鷹は病気らしいし、戦う前から勝負は決まってるよねぇ?やる意味あるの?」

 こら山崎、話を遮られたからってイラついてミノムシ斎藤を蹴らない。ゴスゴス蹴らない。

 黒鷹の病気のことは、黒鷹と小紅が夫婦になった時に新選組にも知れている。これに反応を示したのが、同じ病と闘う沖田だ。

 彼はまだ誰にも打ち明けていないが、咳がおかしいのは薄々周りの気を引いている。黒鷹の病についてあまり触れていると疑われるぞ。

「沖田さんは、この戦いに意味がないと?」

「さぁー、どーだろーねぇ?少なくとも僕は…………うん、楽しみかなー?」

 斎藤に問われ、沖田は少し黙って考えたのちにそう答えた。どんな因縁があるのか、雪とまた会って戦えるのが楽しみなんだろうな。

 誰もがそう思うほど、沖田の笑顔が眩しい。いたずらっ子の笑顔。悪魔の笑顔。

 普段滅多に怒らない明るい雪が、ゆいいつこの沖田にだけはイライラを隠さずに滅多打ちにするのだから。一体何をしたんだ?

「俺様も楽しみっすね。あの鳶のヤローをこの手で倒せると思うともう、心臓が高鳴ってたまんねぇ」

 そう言うと思った。とでもいうように、他の3人は山崎に目を向ける。もはや山崎の頭の中は鳶でいっぱいだ。

「私は、相手が誰であろうとかまわぬ。ただ……女子供を相手にするのはやはり少しばかり気が引けるな。斎藤君はどうだ?」

 女子供、小紅と猫丸のことか。雪も含まれている?新選組の仕事上、女を相手にすることは少なくともたまにある。だが、猫丸のような子供を相手にすることはほとんどないに等しい。

 そうは言っても松原だ、真摯に向き合って全力で戦うのだろう。山崎に蹴られて床をゴロゴロ転がっていた斎藤に目を向ける。

 目が回ったか?彼はしばらく黙り込んだあと、はっきりと言った。

「寂しいな」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Get So Hell?

二色燕𠀋
歴史・時代
なんちゃって幕末 純粋 人生 巡業中♪

隠れ刀 花ふぶき

鍛冶谷みの
歴史・時代
突然お家が断絶し、離れ離れになった4兄妹。 長男新一郎は、剣術道場。次男荘次郎は商家。三男洋三郎は町医者。末妹波蕗は母親の実家に預けられた。 十年後、浪人になっていた立花新一郎は八丁堀同心から、立花家の家宝刀花ふぶきのことを聞かれ、波蕗が持つはずの刀が何者かに狙われていることを知る。 姿を現した花ふぶき。 十年前の陰謀が、再び兄弟に襲いかかる。

女髪結い唄の恋物語

恵美須 一二三
歴史・時代
今は昔、江戸の時代。唄という女髪結いがおりました。 ある日、唄は自分に知らない間に実は許嫁がいたことを知ります。一体、唄の許嫁はどこの誰なのでしょう? これは、女髪結いの唄にまつわる恋の物語です。 (実際の史実と多少異なる部分があっても、フィクションとしてお許し下さい)

真田源三郎の休日

神光寺かをり
歴史・時代
信濃の小さな国衆(豪族)に過ぎない真田家は、甲斐の一大勢力・武田家の庇護のもと、どうにかこうにか生きていた。 ……のだが、頼りの武田家が滅亡した! 家名存続のため、真田家当主・昌幸が選んだのは、なんと武田家を滅ぼした織田信長への従属! ところがところが、速攻で本能寺の変が発生、織田信長は死亡してしまう。 こちらの選択によっては、真田家は――そして信州・甲州・上州の諸家は――あっという間に滅亡しかねない。 そして信之自身、最近出来たばかりの親友と槍を合わせることになる可能性が出てきた。 16歳の少年はこの連続ピンチを無事に乗り越えられるのか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

生克五霊獣

鞍馬 榊音(くらま しおん)
歴史・時代
時は戦国時代。 人里離れた山奥に、忘れ去られた里があった。 闇に忍ぶその里の住人は、後に闇忍と呼ばれることになる。 忍と呼ばれるが、忍者に有らず。 不思議な術を使い、独自の文明を守り抜く里に災いが訪れる。 ※現代風表現使用、和風ファンタジー。

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

ぶよぶよ人間

クイン
ホラー
 ぶよぶよ人間が僕を攫いにくる。そいつは僕にしか見えない。ぶよぶよ人間と僕の関係。それがわかった時、僕は僕を知る。

処理中です...