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一夜限りの
10P
しおりを挟む「やべ、僕もなんか頭がスッキリしてきた。飲む前と同じくらい。1本くらい飲み直してみる?」
桜鬼もか。原田のすっとんきょうな発言がよほど衝撃だったと見える。が、どうやら永倉も同じようだ。
「いや、今日はもうお開きだ。桜鬼の分は俺が払う。いい、出すな。その代わり――」
我に返った永倉は原田の財布から原田の分を支払い、自分の財布から自分と桜鬼の分を支払う。が、店主に「足りねぇぞ」と言われ店主と財布を2度見。
枝豆を侮るなかれ。残金的に苦しかったらしい。少し、原田の財布から足りない分をこっそり出していた。
ちょっと時間はかかったものの支払い終わり、3人は店の外に1歩踏み出した。
永倉が桜鬼に向き直ってビシッと指を差す。とても真剣な顔で、橙色の瞳にキョトンとした桜鬼の顔が映る。
「立て替えてやったんだから、必ず返せ。俺は気が長い方だからしばらくは待ってやるけど、あんまり遅かったら利子付けるからな。だから、必ず返しに来い」
「永倉さん………………格好つけて奢ってくれたんだと思ってたのに、まさか請求するなんて。小さいですね」
「てめぇ今どこ見て言った!?器だろ、心の器が小さいってことだよなぁっ!?何でニッコリ微笑む!?」
「まぁまぁ新八さん、そうカッカしなさんなって。小さいんだから。クククッ……いでぇっ!!」
せっかく格好良かったのに弄ばれているな、永倉。しかしとても楽しそうだが。
桜鬼は永倉に「小さい」と言った時、視線を下の方に落としていた。それに便乗して原田も視線を下に落として笑っていると脳天に永倉のゲンコツ。
永倉は奢ったんじゃない。金を貸して、必ず返すよう約束させた。
それがどういう意味なのか、分からないほど桜鬼は馬鹿じゃあない。分からないのは高遠くらいだ。無理な約束を、わかったうえであえて承諾。
「新選組の隊長様からお金を借りるなんて恐れ多いね。これは早くに返さないと。あぁ、心配しなくても、ちゃんと仕事して働いて得たお金で返すから。必ず返すから」
そう言って桜鬼は苦笑。嘘を吐いた。これは酒友としての再会を願ってのこと。
不思議なことに罪悪感はない。むしろ嬉しいと思ってしまう。守れない約束のために、桜鬼は2人に背を向けて1歩踏み出す。
いつかまた3人で酒を飲み語り合おうと願って。守られない約束のために永倉と原田は桜鬼に背を向けて1歩踏み出す。
振り向かない。そのまま2歩目、3歩目と踏み出して足を止めない。ザッザッと地面を踏みしめる足は、軽かった。
「ありがとう。またね」
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