鷹の翼

那月

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一夜限りの

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「いつもこの店の枝豆を全部食ってるよ?常連になってからはわざわざ、俺のためにたくさん仕入れてくれるからね。わ、指がシオシオになってる」

 枝豆は桜鬼の好物。とんでもない速さで山盛りの枝豆が空になって隣に殻の山を作っている。

 食べ終わった後の枝豆の殻は半分ほどのかさになって山を築いているが。その殻の山が12個。さっき来た分を合わせて14かごか。畑一面は余裕だな。

 長時間大量の、枝豆をほぼ止まることなく食べ続けている。だから味付けに使われている塩のせいで指先がシオシオ、もう塩味が染みついているんじゃないか?

 これくらいの量を食べるのはよくあること、というか毎度のことなので。この店の店主は桜鬼がいつ来てもいいようにと、日持ちする枝豆を大量に仕入れているんだとか。

 いつもいくつの枝豆を食べているのか、この3人と松原が加わった4人で数えてみたことがある。結果、千を超えたあたりでやめてしまった。知らなくてもいいことも世の中にはあると。

「んくっ……桜鬼さぁ、それ食ったら帰るのかぁ?ならぁ、もう少しぃゆーっくり食って行けよぉ」

 もう熱燗を半分以上飲んだらしい、目がトロンとしてきた原田が枝豆のかごを指先で引っ張った。

 盃を片手に、机に溶けるようにデローンと伏せて上目遣い。寂しそうな、夕方の空のような紫色の瞳に桜鬼の驚いた顔が映る。

 赤く染まった頬、潤んだ瞳、そして上目遣い。からの寂しそうな表情と声。桜鬼の手が、止まった。

「…………わ、あ……びっくりした。あんたが可愛い女の子だったら襲ってたかもだよ、危ない危ない。あー、びっくりしたなぁもう、本当に……いてっ」

 酔っているからとはいえそんなことを言われるとは思わなくて。それに、酔いのせいで出た言葉ではなくちゃんとした原田左之助の本心の言葉に聞こえたから。

 動揺のあまり、桜鬼は手に持っていた枝豆をかじろうとして誤って指を噛んでしまった。

 飲んだくれの隊長は、笑わない。ジッと、彼を見つめるばかり。永倉もそんな原田の様子に驚いていたがやがて「そうだな、最後くらいはゆっくりしようぜ」と唇を酒で濡らす。

 そう、きっとこれが“最後”になる。酒を酌み交わすこの時間だけは、3人にとっては特別だから。

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