鷹の翼

那月

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一夜限りの

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 ――小紅が土方の元へ行くよりも少し前、夕方から夜になったあたり。桜鬼は細い路地の奥にある、常連客にしかわからない小さな食事処に来ていた。

 1人ではない。少なめの夕食を食べ、酒の相手をしているのは新選組の十番隊隊長の原田。そして、そのつきそいの二番隊隊長の永倉。

 とてもじゃあないが、酒の席に原田を1人にすることなんてできないので自動的に付き合いが長い永倉がついてくるわけだ。

 3人ともがこの店の常連客で、今日の夕飯にとこの店を選んだら偶然居合わせた。

 目が合って、なんとなく「無礼講といこうぜ」と原田に誘われ盃を突き合わせる。

 この3人も、明日には自分達がどうなるのかがわかっている。実は今までもこの3人はよく一緒に酒を飲んだ仲なのだ。だからこそ。

「今回はまた派手にやらかしたなぁ。さすがに、土方さんから聞いた時は肝を冷やしたぜぇ?」

「左之助、のっけから飲み過ぎだ。もう少しゆっくり味わえよ。あぁ、俺も一瞬記憶が飛んだ。ってのは大げさだけどさ、驚いたぜ。まさか双子の兄弟だったとはな」

 原田左之助、2杯目にしてすでにデロデロ。3杯目を注ごうとしたので酒を永倉に奪われ、唇を尖らせて桜鬼の酒に手を伸ばす。

「これは俺の。白さんとのことを聞いて、やっと黒さんとの距離が近づいたって思えたんだよね。あの人、自分のことは全然話してくれなかったから」

「ふぅーん、よかったなぁ?やっと信用してくれたってことだろう?お前らの……小紅ちゃんの介入がなけりゃあ死んでたよな、黒鷹」

「うん。小紅ちゃんには1番驚かされたよ。黒さんに追い出された時に、やけにあっさり引き下がったから何か考えがあるんだと思ってたけど。まさか白さんの用心棒になって待ち構えるとはね」

「桜鬼、顔がニヤついてるぜ?フラれて諦めたんだろ、さっさと新しい女でも見つけろよ」

 そーっと伸びてきた原田の手の甲をパシッと叩くと、桜鬼は盃の酒を煽った。つまみの枝豆を口に放り込んでへにゃあっと笑う。

 まだ未練タラタラじゃないか。桜鬼が失恋した後、酒でも飲もうとしてこの2人と鉢合わせ、酒を酌み交わし打ち明けていた。

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