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一夜限りの
3P
しおりを挟む「咳は我慢なさらないでください。体調は大丈夫ですか?」
「うん、平気だよ。ふっ……すごいなぁ。びっくりなんだけど。今にも死んじゃいそうなくらい緊張してドキドキしてる。ほら」
笑いながら、つかんだ小紅の手の平を自分の胸に当てる。飛び出しそうなくらい強く早く脈打つ心臓がそこにある。
踏みとどまっていた。黒鷹はこれでも頑固だから。敵である近藤が、妻である小紅が背中を押した。突き飛ばした。
緊張して、怖くて、でも嬉しくて。彼の胸の中で暴れる心臓の音に驚く小紅は、自分の手をつかむ手をつかむと引き寄せる。
赤い顔で「私も、同じです」と自分の胸に彼の手を当てる。同じくらい、力強いドキドキ。
ずっと待ち望んできた、この時を。恥ずかしくて発狂しそうだったけれど、言って良かった。言わなければ、黒鷹は小紅に触れることなく終わっていただろう。
鼓動に、というか初めてマトモに触れた胸に酷く驚いてしまった黒鷹。慌てて、ギュムッとわしづかみ。なにやってんだ。
自分にはない柔らかいその感触に一気に顔を真っ赤にさせ「ご、ごめんっ」と手を離す。どうやら初めてではないらしい黒鷹のくせに、これではまるで童貞の青二才。
一旦落ち着こうと深呼吸を繰り返す黒鷹に、小紅の手が伸びた。優しく「大丈夫です」と、頭を撫でる。
ちなみに小紅はこれが初めてとなる。なにせ、あの夜鷹と近藤に育てられてきたのだ、桐箱入り。しかし、知識はある。必要なことは全て学んだ。
「紅ちゃん……あーあ、格好悪いね、僕。でもこれはかなりキたよ。じゃあ…………脱がすね」
小紅の夜着に手をかけ、唇を重ねる。鎖骨が、肩が、胸が露わに。触れられるたびに小紅の体は小さく跳ね、口からは「あっ」と吐息が漏れる。
その吐息を食べるように、何度も何度も啄むように唇を重ねていく。時折、我慢せずに咳を交えながら。
すぐに夢中になって、深く求める。熱い吐息、甘い声、お互いの名前を呼ぶ声が口から漏れ、他に言葉はいらない。ただただ相手の温もりを、熱い想いをひた感じ身を任せる。
あぁ、こんなにも黒鷹が求めてくれる。愛してくれる。女としての喜びを感じ、今までにない幸せを全身で感じながら小紅は、黒鷹を受け入れ求めた。
最初で最後の、たった1度の。
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