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一夜限りの
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しおりを挟む「触れてるよ?両手で撫で回されたいってこと?前にものすごい怒ったからもうやめようと思ってたんだけど」
「そ、そうではなく!そのっ………………私達は夫婦です。明日が、1刻先がないかもしれないのに、夫婦らしいこともなく終わるのは…………嫌、です」
小紅は実際にお上からの命を受けた近藤が帰ってくるのを目にした。だからこそ、焦っている。
黒鷹が小紅に手を出さないから。夫婦になって何日も過ぎたというのに。恥ずかしくて恥ずかしくて、顔から火が出そうなのを我慢して想いを口に出す。
自分から抱き着いたのも、夜着に着替えらされるのに無抵抗だったのも、彼から動くのを待っていた。同じ想いだと思っていたから。
黒鷹は悲しげに口を開いて、しかし何も言わない。その口の形からして、言いたいのは「だめだよ」か?
何も言わないでいるのはきっと、近藤と密会した時に言われたことを思い出しているからだろう。
あの時は黒鷹は首を横に振った。けれど今、せっかく待ってくれていた小紅に言わせてしまった。近藤が言っていた言葉の真意に、気付いた。
小紅の頭を撫でていた手が止まり、もう片方の手で密着するよう肩と腰を抱き寄せきつくきつく抱きしめる。
手を出さない、何も残さないまま終わりを迎える覚悟をしていたんじゃない。逃げていた。わかっていたと思っていただけで、本当は何もわかっていなかった。
それが、今わかった。自分の愚かさに気付き、胸が苦しくなる。
自分達には明るい未来はない。覚悟を決めて、そうした。だからこそ、また考え直してもいいのだろうか?
自分には小紅を幸せにすることはできないのに。違う。幸せかどうかは、小紅が判断することだ。小紅の望みをかなえないのならそれは、確実に幸せではない。
黒鷹だって本当はそうしたいと思っているのだから。ならばもう答えは出ている。
突然のことに驚く彼女を腕に抱いたまま、黒鷹は大きく息を吸った。少し咳をして、ゆっくり息を吐く。そして、耳元でささやいた。
「いいの?」
これが黒鷹が最終的に出した答え、そして確認。顔を真っ赤にさせて小さくうなずいた小紅の横に手をついて覆いかぶさると、ゆっくり唇を重ねる。
1度だけ。すぐに離して顔を背けると「ゴホッゴホッ!」と咳き込み、呼吸が落ち着けば「ごめんね」と苦笑をこぼす。
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