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二度目の逢瀬
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「…………」
黒鷹が三上白鴇を襲撃した翌日の夜。小紅は新選組の屯所に来ていた。呼ばれたのだ、彼に。元々の雇い主である、新選組副長である土方歳三に。
けれど、呼んでおいて何もしゃべろうとしない。膝を突き合わせるように座ってうつむいて、沈黙を決め込む。
表情はというと、あまりよろしくない。極めて難しい顔をして、これはいつものことだが眉間に深いシワを刻んでいる。
彼がなぜこの頃合いで呼びつけたのか?白鴇襲撃のことだろうが、小紅には心当たりがありすぎて確信を持てる理由が見つからない。
もうどれほど静寂に耳を傾けていただろうか。不意に、土方が「ぐぅ」と小さくうめいた。
「お前……いや、お前達が今どんな状況なのかわかってねぇだろ。今朝早く、近藤さんがお上に呼び出し食らってまだ戻ってきてねぇ。もちろん、お前らの悪行についてだ」
「やっとしゃべったと思ったら、そんなことでしたか」
「そんなことなんかじゃねぇ。城の主に手をかけたんだ、捕縛は確定。良くて切腹、普通は斬首だろう。あーくそっ!つまりだ、捕縛する側の俺からの呼び出しに、捕縛される側のお前が簡単に応じるなってことだ!」
「でも、素直に応じないと、それはそれでだめでしょう?政府の狗さん?」
「そっ……それはそうだが。お前、口の悪さがあいつらに似てきたぞ。はぁ…………全部わかった、覚悟を決めたうえでってことかよ」
ようやく口を開いたかと思えば、やっぱりその話か。今は敵同士でも、一時期は自分に仕えていた小紅を心配している。
土方としては「もっと立場をわきまえろ」と叱ってやろうと思っていたのかもしれない。けれど、小紅は拍子抜けするほどに落ち着いていた。
黒鷹が、実の弟で和鷹の敵である白鴇を襲撃した翌日だというのに。小紅は「黒鷹様には許可をいただいていますから」と言ってのけた。
これでは鬼の副長の名が廃る。ガツンと怒鳴りつけてやろうとして、やめた。彼女の赤黒い光はまっすぐだ。
土方が悟ったように、小紅はすでに全ての覚悟ができている。できているからこそ、土方の前に姿を現した。
それに小紅はもう紅花ではない。新選組でもなければ土方の小姓でもないのだ。むしろ敵。心配される筋合いはない、とでも言いたそうな目で見つめる。言わないが。
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