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三上黒鴇
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しおりを挟む「ゴホッゴホッ!っ……ゴホッ!ゴホッゴホッゴホッゴホッ!はぁ、はぁっ……くそ、あと少しだったのに……っ」
「兄さん?なにこれ、あばら骨折ったの?その咳…………もしかして…………兄さん?」
2本の刀が黒鴇の手から滑り落ちた。激しく咳き込む黒鴇の体は崩れ落ち、瞬時に小紅が飛び出し抱き支える。
押さえる間もなく血が飛び出した兄の口元を凝視、目を見開いた白鴇は悟った。黒鴇が、浩之進と同じ病気を患っているのだと。
咳が止まらない。本気で戦ったから、病にむしばまれる体が悲鳴を上げている。白鴇から隠すように、体を張って彼を包み込むように抱きしめる。
けれど彼は守ってくれている小紅の体を離すと、口元を真っ赤に汚しながらも大好きな弟に手を伸ばす。
血で汚れていない手で、起き上がった白鴇の頭を撫でた。小紅に支えられながらも何度も撫で、柔らかく微笑んだ。
「強くなったね、白。さすが、うっ、ゴホッゴホッゴホッ!城の主、誇らしいよ。ゴホッゴホッ!そんな顔しても、僕はまだ死なないから大丈夫。生きたいと願う理由があるから、負けない」
否定をしない黒鴇に何か言い返そうと口を開くが、言葉が出ない。目を反らしキュッと口を引き結んでしばし何か考え込むと、薄灰色の瞳は小紅を映した。
すぐに奥で様子をうかがっている沙雪に目を向け、けれどやっぱり何を言うでもなく黒鴇に視線が戻る。
「今日、三上城では騒動は起こらなかったし誰も来なかった。だから、夜が明ける前に帰って。皆には僕から命令しておくから」
力強い声だった。白鴇の心の中に巣食っていた闇は眩しいくらいの光に照らし出され消失、下ろされかけた兄の手をつかんだ。
どこにそんな力が残っていたのか。力強く引き寄せると、小紅の腕の中から抜けた黒鴇をギューッと力一杯抱きしめた。
「大好きだよ、兄さん。ずっと会いたかった。寂しくて寂しくて、兄さんに嫌われた理由をずっと考えてた。でも、嫌いになったんじゃなかった。城主を継がなかったのも本当はその病気があったからなんでしょ?兄さんは優しいから。必ず会いに来てくれるって信じてた。だから会えて嬉しかった。心臓がバクバク言って、血液が沸騰しそうなくらい嬉しくて、もう…………離れたくない、よう……」
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