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三上黒鴇
12P
しおりを挟む弟らしい弟の、白鴇らしい白鴇の姿が見られていい具合に力が抜けた。白鴇は大人を通り越して、父親になる。
弾き飛ばされていた夜鷹の刀を拾い、和鷹の刀も一緒に構え白鴇に微笑みかける。優しい、温かな兄の微笑み。
黒鷹から殺意は感じられない。白鴇はどうだろう?こっちは顔の赤みが引いて、口元に笑みを浮かべている。怪しい笑みではあるが、楽しそうだ。
ただ、彼にはまだ殺意がある。楽しさの方が上回っているけれど、黒鷹に復讐してやるという本来の願望は頑固に居座っている。
「本気で行くよ、兄さん。手加減なんてしない、殺すつもりで行くから。だから兄さんも本気で、全力でぶつかってきて」
優しい声。言っていることは恐ろしい凶器の言葉なのに、落ち着いて見守っていられる。
沙雪も2人の声と雰囲気を感じ取ったのだろう。ちょっとだけ安心して、小紅の手をギュッと握っている。小紅は優しく、握り返した。
魅堂黒鷹ではない。ここからは三上白鴇と三上黒鴇の戦い。兄弟の戦い。
沙雪と小紅は2人の邪魔にならないよう身を寄せ合い、静かに見守る。何の音も聞こえない。雪達も家臣達を避難させ、待っている。
白鴇と黒鴇の表情が真剣に変わった。刀を握る手に力がこもり、グッと腰を落とす。
瞬きもせず見つめ合う2人はやがて、同時に息を吐くと姿を消した。息を吐いた「シュッ」という音と共に見えなくなった2人は次の瞬間、刃を合わせる。
部屋の隅で、壁際で、真ん中で、そのすぐ近くで。何度も何度も激しくぶつけ合っては火花を散らす。
刀が振るわれると風が刃となり、蹴り技が決まると一瞬だけ姿が見える。あまりにも速すぎて所々しか見えない。
あ、黒鴇が白鴇の背中を蹴って床に叩きつけた。うつぶせで胸を強打した彼に、間髪入れずに刀を振り下ろしている。
病人とは思えないほどの力だったためあばらを痛めたのかもしれない。咳き込むと吐しゃ物と血を吐いた。でも、寸前にゴロンッと横に避けてすぐに起き上がる。
起き上がりながら足払いをかけ、1度食らっていた脇腹の傷をさらに斬りつけた。
黒鴇の両手には夜鷹と和鷹の刀がある。傷口を押さえられない。荒い息を吐くたびに足元に血がボタボタ落ちていく。
しばし見つめ合い、今度は白鴇の方から飛び出した。首を狙って下から斬り上げ、仰け反らせてから回し蹴り。仕返しか。
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