鷹の翼

那月

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三上黒鴇

8P

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 刀を持つ右腕をダランと下げた白鴇は左手で胸を押さえ、叫ぶ。苦痛に歪む顔からは悲しみと悔しさが見て取れる。

 体中を斬りつけられて痛い。それ以上に、ずっと我慢してきた心が痛い。

 涙に濡れる薄灰色の瞳には歯を食いしばる兄の顔が映りユラユラ揺れる。胸を押さえていた手を伸ばし、震えながらも兄の胸元をつかんだ。

 それは一瞬の出来事。肩関節を貫かれて動かせないと思っていた右腕が、目にも留まらぬ速さで刀を振るう。

「ぐうっ!!かはっ……っ、白……!」

 刀は深く刺さっているし、胸元をつかまれて避けることもできずに肩を斬りつけられる。黒鷹は、白鴇を突き飛ばそうとしてその腕を、また斬りつけられた。

 目一杯顔を背けたため首を斬られることは避けたが、大量の血が吹き出して白鴇の顔を赤く染めた。

「あぁ、兄さんの血だ。あったかいね。子供の頃、僕が寒いって言ったらいつも一緒の布団で寝てくれたよね?でも兄さんがいなくなってから僕、寒くて寒くて。ねぇ、また一緒に寝てよ?僕をあっためてよ?」

「それは僕達が子供だったからっ。……僕も白ももう大人なんだ。それぞれの新しい家庭で、くっ!話を聞いて、白!僕達は離れないといけないんだよッ!」

「離れない。離さない。どうしても僕を斬りたいんならその腕を斬り落としてあげる。逃げるっていうんなら足を。鎖につないで、ずっとずっとずーっと、僕達は一緒に過ごすんだ」

「し、ろ…………お前には、沙雪ちゃんがいるだろう?」

 ひと房だけ白い白鴇の髪が赤く染まり、まるで別人。たまらず飛び逃げた黒鷹に、刀が抜けて右肩から血が吹き出すのも気にせず斬りかかる。

 兄を想う心は醜く歪んでしまっていた。来るのが遅すぎた、もう手遅れなのか?

 白鴇のそばには妻である沙雪がいるはずだ。元々、白鴇は沙雪のことが好きだったんだし。夫婦になってずっと一緒にいれば、黒鷹への執着も少しは薄まっていたはず。

 なのに、どうして?黒鷹は、嫌な予感がした。

 さっきまでとは全然違う。比べ物にならないほど動きが速く、動作は大きいのに隙が無くて的確に繰り出される。

 何度も襲いかかり、赤い白銀の刀は黒鷹の体を傷つける。憎悪という名の闇に溶けた白鴇の黒い言葉が黒鷹の心を傷つける。

 反撃する隙が無い、防ぐので精一杯だ。このままでは黒鷹は負ける。白鴇に、殺される。

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